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95)大きなサル、小さなサル

 フランス語でホールのことをsalleと言います。発音はサルです。ホールだけではなく小さな部屋もsalleということがあります。例えば、salle a manger(サラマンジェ)は食堂、salle de bain(サルドバン)は風呂場と、小さな部屋にも使われます。

 1995年から2年半を過ごしたパリでの話です。診療を終えた夕方から、友人と映画に行くことになっていました。その友人は、帰国子女で日仏語をほぼバイリンガルとして操ることができました。もちろん私と一緒の時は、私のフランス語のつたなさから日本語を使ってくれていました。しかし時々無意識でフランス語が混じることがありました。シャンゼリゼにある映画館で現地集合ということになりました。私の職場にその日の午後に友人から電話がありました。「あそこの映画館には、小さなサルと大きなサルの二つのサルがあるんだけど、大きな方のサルだから、間違えないようにね。」という連絡でした。友人は、まったく違和感なく、自然に語っていたのですが、私の方は笑いをこらえるのに必死でした。映画館に大きなサルと小さなサルがいて、その大きな方だって?まあ私もパリ生活が1年経っていた頃なので、意味は分かっていたのですが、やはり私の左脳が受け取るのは、salleではなくて猿でした。もちろんその日、友人と無事に映画館の「大きなサル」で落ち合うことができました。その時に、このサルに関する私の感じ方を伝えると、友人もこの面白さを分かってくれて、最初はクスクスと、でもしばらくして、思い出し笑いでゲラゲラ笑いになりました。

 このサル事件があってから、私自身でこれとよく似た日仏語の言葉遊びができないかなと考えてみました。その例を一つ挙げてみます。フランス語の挨拶で一番一般的なものが、サバ(元気?)というのがあります。サバと声をかけられると、普通はサバ(元気だよ。)と返します。そこで、サバと(鯖)声をかけられた時に、タイ(鯛)と答えるというのです。これは、もちろん日仏語の両方を理解している人にしか受けません。私が開業していたアメリカン病院で通訳をしていた日仏混血のフランス人を相手に試してみました。彼女が朝一番で会った時にサバと言ってくれました。私がタイと答えると、彼女は一瞬キョトンとした顔をしましたが、2秒後に「もう?ドクター・キド、冗談ばっかし!」とケラケラ笑ってくれました。

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木戸友幸
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