80)キャッシュレス
平成最後の年が明け、皆さん確定申告に備えて書類の準備を始めておられると思います。そこで今回はお金にまつわる「異文化コミュニケーション」的話題をご提供します。
2018年末、様々な理由から金融庁が日本のキャッシュレス化を進める宣言をしました。買い物や外食といった消費の現場での日本のキャッシュレス化は高々2割程度で、米国の45%、中国の60%、韓国に至っては89%と比較すると、確かに格段に低い数字です。
さて、私が20数年前に2年半を過ごしたフランスを初めとするヨーロッパ諸国も、中国、韓国ほどではないですが、キャッシュレス化は日本よりずっと進んでいます。当時、パリの病院で私の患者の支払い方法もキャッシュは6割くらいでした。自費診療なので初診料の額がやや大きかった(日本円で1万円程度)ということもありますが、キャッシュでない患者さんは個人の小切手を書いていました。そのような状況下で、その病院で殆どの人がキャッシュで支払うある患者層が存在しました。それは、ロシアから検査や治療のためにパリを訪れた人達でした。1990年代半ばのことでしたから、まだソ連崩壊からそれほど時が経っていない時期でした。その当時、平均的なロシア国民は医療を受けるためにパリくんだりまで来れる収入はありませんでした。それが出来たのは、オリガリヒと呼ばれるロシア新興財閥の人びとでした。彼らは、旧ソ連の国有財産(旧ソ連軍の武器なども含む)をうまく立ち回って獲得した連中でした。どうして、彼らがキャッシュで支払うかは、もうお分かりでしょうが、カードで支払うと足が付くからです。オリガリヒの多くは、足が付くと困る多くの財産を所有しているということです。この病院の検査代、手術代、部屋代などすべて保険なしの実費なので、数百万円の支払いは稀ではありません。退院時に札束を詰め込んだボストンバッグを抱えたボディーガードを引き連れた集団を何度か病院の廊下で見かけたことがあります。
カードを使うと足が付くということに関して最後にもう一つコメントがあります。韓国は断トツにキャッシュレス化率が高い国です。もちろん韓国政府は足が付くカード使用を積極的に進めており、脱税を出来るだけ防止しているのです。国民も誰もが政府の意図は知っています。ですから、飴としてカードの使用金額が年間所得の10%を超えると、超過額の10%が課税所得から控除されるのです。この飴と鞭を駆使して89%という驚異のキャッシュレス化率を達成したわけです。
ということで、この20年間ほどで世界中で進んできたキャッシュレス社会にも色々裏表があることを、お伝えしました。
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