8) 金持ちイスラム国での異文化体験
1990年の湾岸危機時に日本医療隊の二次隊のチームリーダーとしてサウジアラビアに1ヶ月滞在する機会がありました。その詳細は当サイト「湾岸危機コンフィデンシャル」をご覧ください。当連載では、異文化体験という視点からの感想を述べたいと思います。
私は個人的には無宗教で、特にどの宗教に対しても中立な姿勢を保っています。ですから、イスラム教に対しても、それまでは同じスタンスでした。しかし、この1ヶ月間のサウジでの滞在で、イスラム教に対しての考え方が少し変わりました。少なくとも金持ちイスラム国のそれに関しては。金持ちイスラム文化圏の基本姿勢は、言葉は悪いですが、独りよがりと傲慢だと思うようになりました。
サウジアラビアを含めた産油国と言われる中東の富裕国では、旅行者やビジネスで訪れた非イスラム教徒にもイスラム教の戒律を押し付けます。例えば、サウジでは、我々外国人でも飲酒はご法度です。ホテルの部屋で隠れて飲めば大丈夫と思われるかも知れませんが、メジャーなホテルでは宗教警察(こんなものまであるんです!)のスパイがボーイとして配置されており、すぐに摘発されます。女性の場合は、肌を露出させないために外出時はアバヤとよばれる全身を覆い隠す黒装束を着けないといけません。国内では、外国人にまで宗教的な戒律を強制するくせに、彼(彼女)らが一歩、海外に出ると酔いつぶれるまで飲酒はするし、女性は肌もあらわな西洋ファッションをまとうというのは有名な話です。
日本医療隊が交渉相手としたのは、サウジの厚生省の高官です。彼等は例外なくサウジの王族で、イスラム教徒で、イギリスやアメリカでの留学を経験しているエリートです。その交渉時の態度たるや、傲慢を絵に描いたようなものでした。日本人だからそう思うわけではなく、非イスラムの民主主義国家の国民なら誰でもそう思ったことは間違いありません。湾岸危機時に日本は、クウェートに対し130億ドルという巨額な援助金を拠出しました。金だけでは駄目だという国際社会からの批判に答え、医療隊を組織してサウジに来たのです。その我々に対し、「我々は別にあなた方に来てくれと頼んだ覚えはない。だが、何を望んでいるかと尋ねられれば、我々が望むものは救急車とそれをサポートする通信システムだ。」と感謝の言葉もなく、ウン十万ドルの更なる金銭的な援助を平然と要求したのです。
2010年、イスラム文化圏であるチュニジアで、次いでエジプトに続きリビアでも起きた「アラブの春」と呼ばれる民衆蜂起は、イスラム教と金が結びついた過剰な権力に対する民衆の反発が招いたものだと思います。遅かれ早かれ、「アラブの春」はサウジを含めた中東の金持ちイスラム諸国にも訪れるはずです。
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