60)やはりコミュニケーションは大切!
2014年秋のことです。ある土曜日の診察中に、看護師から英語の電話がかかっているとのことで、出るとフランス人の男性旅行者からのものでした。英語はあまり得意でないらしく、英語とフランス語のチャンポンで分かったところによると、三日前から右目の上に痛い腫れ物ができていて、もう三つの医療機関を受診したが、診断が付かないので何とかして欲しいということでした。現在地を尋ねると、ホテルで紹介された大阪で一番有名な大学病院の前にいるとのことでした。どうも、土曜の昼前で、日本語は皆無、英語も下手なフランス人ということで、体よく門前払いされたようです。その病院からならタクシーで半時間なので、タクシーで木戸医院まで来てもらいました。
30歳の元気そうなフランス人男性でしが、右目上に3個の赤い腫れ物があり、かなり痛く、かゆみはないとのことでした。眼科も受診したが、目そのものに病変はないとのことでした。もう少し質問すると、右の頭皮にも痛みがあるとのことでした。毛髪をかき分けて診察すると、頭皮にも同じ赤い腫れ物がありました。診察を初めて5分で診断が付きました。三叉神経第一枝の帯状疱疹です。身体の顔面を含め色んな部分の右か左の一側に帯状の痛い水泡あるいは赤い丘疹が突然出現する病気です。よく効く抗ウイルス剤もあり、一週間の服用でかなりの改善が期待できます。
帯状疱疹は、別に珍しい病気ではなく、簡単な問診と診察で一発診断できます。これは、皮膚科でも内科でも、あるいは眼科であってもまず診断は可能です。ただし、問診が困難な今回のケースなどでは、診断が難しいこともあるようです。たまたま、私がフランス語と英語が出来たため、 5分で診断できたということです。彼は、医学は素人ですから、私をすごい名医と誤解してくれたようです。
支払いの時になって、キャッシュが足りないことが判明しました。医院の近くの2軒のコンビニのATMに案内しましたが、2軒とも海外発行のカードは出金できないとのことで、結局、私が立て替え払いをし、一部を彼からユーロ紙幣で受け取り、残りは後日返済ということになりました。
手間がかかる患者でしたが、結果オーライで患者には感謝され、こちらもかなりの充実感を得られました。しかし、2020年に東京オリンピックを控え、外国人に対するプライマリ・ケアの貧弱さや、クレジットカードの使い勝手の悪さなどが、浮き彫りになったケースです。 | BACK | |