51)やっかいな健康診断
これまで就職のためのものや、企業の定期的な健康診断は数多くやってきました。そのどれも、明らかに健康そうに見えて、指定された検査項目がすべて正常範囲なら、あっさり正常と書いていました。それで問題になったことは一度もありませんでした。しかし、その常識が覆されたことがあったのです。
2010年のことでした。中東の某石油産出国の航空会社の客室乗務員(CA)の就職のための健康診断をして欲しいという依頼がありました。面接はもう合格しており、後は健康診断のみということだったので、気軽に引き受けたのです。ところが、来院した女性は浮かない顔をしていました。事情を訊くと、これまで二つの医療機関で、診断書を書いてもらったのだけれど、会社に受け付けてもらえなかったそうです。木戸医院のウェブサイトを見つけ、海外事情に詳しいと思い、受診したというのです。
診断書用紙を見せてもらうと、ちゃんとした英語で記載されており、検査項目も標準的なものでした。どういう理由で不受理になったのか理解できませんでした。型通りに診察し、採血と胸部のレントゲン写真を実施しました。数日後にすべての結果が揃ったので、診断書を書きあげ、彼女に郵送してもらいました。すると、やはりクレームが彼女宛のEメールで返ってきました。胸部レントゲンの所見は正常だけでは駄目だというのです。側彎症の測定係数を添えたうえで、正常と判定しないといけないと書いてありました。これまで、それこそ何百件も内外の診断書を書いたことがありますが、こんなことを言われたことは初めてでした。それで言われた通りに書いて送ると、今度は、指定されていなかった採血項目を調べないといけないと言ってきました。そこでその要求にも従いました。同じようなことを4〜5回は繰り返したと思います。最初の来院からほぼ一か月後に、彼女のもとに採用通知が届きました。
それからほぼ一年後、同じ航空会社のCA合格者から健康診断の依頼がありました。もちろん1年前の依頼者に相談して木戸医院のことを聴いたのです。彼女の場合は、最初に受診した医師が、2度目の馬鹿げたクレームに怒ってしまい、うちではもう書けないと依頼を拒否したのだそうです。まあ普通の医師(別に日本の医師でなくても、どこの国の医師でも)ならそうする可能性は高いです。
私も今回は前回の経験があるので、お仕着せの診断書の他に、It is to certify that〜(以下の事を証す)という形式張った独自の診断書を添え、もちろん、前回、後に要求された採血項目もすべて最初から採血しました。すると今度は一発OKでした。
深読みすると、わざとトラブルを与えて、それをどう処理するかをみているのかもしれません。でも、感じからすると、その航空会社の担当医師が単に、常識知らずの権威主義者なだけだと思います。その二人の依頼者からの礼状メールへの返事には、「行く前からこれだけのトラブルがあったのだから、現地ではかなりの苦労が予想されます。でもそれらを一つ解決する度に強くなります。世界最強のCAになってください。」との激励を送りました。
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