46)日系北米人二世の生活言語
2015年1月に封切られた「パンクーバーの朝日」という映画を観ました。これは、第二次大戦前に、パンクーバー在住の日系カナダ人二世のアマチュア野球チームの朝日軍の活躍を描いた映画です。なかなか感動的な物語で、それなりに満足したのですが、一つだけ違和感を感じたことがありました。それは、日系二世たちが、まったく流暢な日本語で会話していることでした。実際は、カナダやアメリカの日系二世は、日常の言語は、英語がメインで、英語の上手でない一世の両親と話すときだけ日本語を使っていたのです。私自身、第二次大戦中の日系人部隊の442部隊に興味があり、これまでにたくさんの442部隊に関する書籍や映画を観ましたが、そこでの日系二世の言語は、ほぼ完璧な英語でした。ニューヨークで3年間研修医生活を送ったときも、かの地で、何度か日系二世の米国人やカナダ人と話す機会がありましたが、日本語は片言程度で完璧なネイティブな英語をしゃべる人たちばかりでした。
言葉は、その国の文化と密接に結びついています。ですから、北米日系二世の生活を描くに当たって、日本語で喋っているか、英語で喋っているかで、かなり内容に変化が出ると思うのです。映画の中で、こういう場面がありました。二世たちは、白人との間で何か面倒が起こると、すぐに「すみません。」と謝るのです。それを見た、日系に理解のあるカナダ人が、「どうして日系人は、反論せず、すぐに謝るのだ。だから、馬鹿にされるのだ。」と諭すのです。しかし、実際の当時の日系カナダ人二世は、英語でカナダの学校で教育を受け、日本の文化よりカナダ文化の方により強く染まっていたはずです。ですから、当時の1世日本人のように、何でもsorryと言っていたとは思えないのです。
中国人は、日本人より、より早く北米に移民していました。中国人も二世以降になると、英語は立派にしゃべるのですが、家では中国語をしゃべるのが普通なのです。普通というより、中国文化を維持するためにほぼ強制的にそうしているらしいのです。30年前にニューヨークで研修医をしていた頃、同年代の中国系の研修医(その頃は、5世、6世の時代)が例外なくそう言っていました。日系は、1世から2世に移り変わる時代に、日米戦争があったので、2世以降は、少なくとも言語は完璧に北米化しようという雰囲気だったようです。ハワイでは、白人以外は日系を含め、当時ピジンイングリッシュ(pidgin
English)といって、文法的に幼稚な英語が使われていましたが、日系2世に限っては、英語教育が行き届いていたので、書いた英語はほぼ完璧だったそうです。
ということで、ちょっと悲しい歴史的な背景もあり、北米日系二世は英語しか使えなかったのです。ですから、今度、北米日系二世を扱った映画を作る時は、二世役をする俳優は、少々発音は悪くてもいいから、英語で台詞を喋り、字幕を付けたらよりリアルな作品になると思うのですが、如何でしょうか?
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