43)フランス語の効用
日本には外資系の製薬会社がいくつかありますが、それらの会社の幹部社員や代表者には、外国人がかなりいます。彼ら(女性はまだお目にかかったことはありません.)が関西の医療現場を視察するに当たって木戸医院が選ばれたことがこれまでに何度かありました。
あるとき視察に来られた某社の営業本部長は日系カナダ人でした。事前情報では、彼は日系ではあるけれど仕事では一切日本語は使わないし、仕事は非常に出来る人だということでした。医院の玄関で迎えると意外に小柄で外見はまったく日本人ぽい人でした。そんなに才気煥発な人なら、こちらもちょっと何か気を利かした対応をしようと思って、お迎えの挨拶をフランス語の定番の挨拶;Bienvenue
a Osaka! Je suis tres heureux de vous voir. (ようこそ大阪へ。お会いできて非常にうれしいです。)
と一応自然なフランス語でし、その後しばらくの間フランス語で会話を進めたのです。
カナダの公用語は、英語とフランス語で、公式にはその両方とも対等の扱いなのです。しかし、実際は英語の力が圧倒的に強く、英語系カナダ人のほとんどがフランス語は片言程度で、逆にフランス語系カナダ人のほとんどは、仕事上の必要性から英語を流暢にしゃべります。実はそのことを知った上でのフランス語での挨拶だったのです。少し、意地悪な対応だったかも知れません。
するとその日系カナダ人は、仕事上のスマートさからはほど遠い、恥ずかしそうな仕草で、少し顔を赤らめながら、自分はカナダ人だが、あなたの挨拶の大意が分かる程度のフランス語能力しかなく、もしよければ会話は英語でしてもらえないだろうかと、まったく訛りのない英語で言いました。
もちろんその後は、英語で木戸医院の新築に当たってのコンセプトや、日本の開業医療の問題点などの話題で盛り上がりました。英語は勿論、ネイティブの彼の方が流暢で、語彙も豊富なことは間違いありません。しかし、30分余りの会話の主導権はずっと私がとっていたように思います。
英語に自信のない日本人は、英語国の人間と対応する時に対話中の主導権を、いろんな意味で英語国人に握られてしまいがちです。しかし、その時、この例のように、こちらがフランス語を一発かますと、立場がまったく逆転することがあります。これに近い体験は、これまで数回味わったことがあるので、これはかなり普遍的な現象のようです。でも、あまり多用すると嫌みな日本人と思われるので、これはと思った時だけに使ってください。
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