37)中国一の異文化コミュニケーションの達人
2015年3月26日の英国の経済誌Financial Timesに、地滑り的に参加国を集めた中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の参加誘致に関する内幕が載っていました。
この地滑り的勝利の発端は、AIIBに断固反対の米国の一番の同盟国である英国が参加を表明したことです。英国の参加に触発されドイツ、フランス、イタリアなどの欧州勢がそろって参加したのです。
この交渉の中国側の黒幕と目されている人物は、金立群という人物なのだそうです。金氏は、元アジア開発銀行(ADB)副総裁 を務めたこともある都会的に洗練された人物で、完璧な英語を操り、そこそこのフランス語も出来ます。同氏と交渉経験のある数人の言葉を借りるなら、「外国人の扱いにかけてはピカイチの中国人」なのだそうです。英国人にはシェークスピアの言葉を引用し、フランス人に対しては、自分がいかにフランス文化に魅了されているかを語り、ドイツ人には、その実直さが素晴らしいと持ち上げて相手を引きつけるのだそうです。
中国政府はうってつけの人物を選んだのですが、この説得活動の大成功には、中国の関係者でさえ驚いているというのです。それほど彼のこの分野での能力が優れていたということです。その能力の中で一番特記すべきものは、当コラムの主題である異文化コミュニケーション能力だと思います。ここからは私の想像で語ってみます。
金氏はアジア開発銀行時代から、語学力や交渉力はそれなりに備わってのだと思います。しかしADBは米日を中心とする西側諸国の利益のために動いている組織です。ADBの中でいかに出世しようと(実際に副総裁にまでなったのですが)、組織そのものが西側主導なので、中国に利するところはそれほどないことを、自覚していたのでしょう。その後、中国の経済力が驚異的に伸び、自らが主導するAIIBの設立に至ったのです。恐らく、金氏はその過程で常に中心的な役割を果たして来たはずです。金氏は、自分の能力と役回りを客観的に熟知しており、AIIB発足にあたり、その号令役ではなく、欧州の米国同盟国の根回し役に徹したのでしょう。恐らくそのために、どの国をどう落とすかの戦術を、異文化コミュニケーション能力を駆使して何百回もシュミレーションして今回の成果を挙げたに違いありません。
このように、現代のグローバル社会にあって、異文化コミュニケーション術は単なる趣味的な能力ではなく、国の存亡に関わる能力なのです。(ちょっと大上段に振りかぶり過ぎかな?)
当コラムの読者の皆さん、自らの専門性を伸ばしつつ、同時に異文化コミュニケーション能力も磨いてください。
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