34)アメリカ海兵隊は終身現役
2007年のことです。その当時、私は大阪にある医院と神戸の自宅をJRで通勤する毎日を送っていました。夜の診察を終え、JR吹田駅から普通電車に乗り、新大阪駅で快速か新快速に乗り換えるのです。その日、新大阪で乗り換え電車を待っていると、十数人の高齢の白人男性の集団と遭遇しました。彼らは皆、野球帽を被っていて、そこにはMARINESの文字が見えました。MARINES、そうです、アメリカ海兵隊のことです。前年の2006年にクリント・イーストウッド監督の硫黄島二部作、「父親達の星条旗」と「硫黄島からの手紙」を観たばかりだったので、彼らが本当に元海兵隊員であれば、訊いてみたいことがいっぱいありました。
彼らの中の人の良さそうな一人に、’ Are you an ex-marines?’(あなたは元アメリカ海兵隊員ですか?)と尋ねると、’No,
I’m not an ex-marines. I’m a marines. ‘ (いいえ、私は元海兵隊員ではなく、今も海兵隊員です。)と少し表情を強ばらせて答えました。もう少し説明を求めると、アメリカ海兵隊員は、使命感や忠誠心がアメリカ軍の中で最も強く、退役してからも、気持ちは現役海兵隊員を貫くのだそうです。
イーストウッドの「父親達の星条旗」についての感想を訊くと、これもあまり面白くなさそうな顔で、確かに、描かれているような事情はあったように聴いているが、俺たちは命がけで、しっかり戦って勝利したんだといった意味のことを答えました。彼らは大阪駅で下車したので、ほんの5〜6分の会話だったので、会話の内容はこれ以上のものはありませんでした。
彼がちょっとムッとしたことには理由があるのです。「父親達の星条旗」の主題は、現在でも、海兵隊の象徴になっている銅像の元になっている硫黄島すり鉢山に星条旗を掲げる海兵隊員達の報道写真にまつわる裏話なのです。彼らはアメリカ人にとっては英雄には違いないのですが、帰国してから、アメリカ戦時国債購入キャンペーンのための全国行脚のような役回りをさせられるのです。
当時の軍幹部の世論誘導のための策略や、自分たちの役割に疑問を持った写真に映った隊員達の葛藤を描いています。確かに、海兵隊員にとっては、あまり面白い映画ではないでしょう。
「父親達の星条旗」は、アメリカ側から観た硫黄島の戦いを描きました。「硫黄島からの手紙」は日本側からの視点のもので、渡辺謙と二宮和也が非常にいい演技をしています。この二部作は、太平洋戦争を描いた映画としては、日米どちらの側にもおもねるこなく、政治的な意図もなく、あくまで人間を描いています。その監督がタカ派として知られるイーストウッドであることも非常に興味深いところです。個人的には、彼に日本国から叙勲してあげればくらいに思っています。
皆さんもぜひ、DVDで一度ご覧ください。
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