32)地元でフランス語
木戸医院では、在宅診療も行っており、常に7〜8人の在宅患者が存在します。
午前の診療直後が在宅診療を行うための往診の時間帯です。ある日の往診中のことです。目的の患者宅に到着し、自転車(最近は駐車禁止が厳しく自転車を使用しています。)を停め鍵をかけていると、背中の方からVous
parlez francais,docteur? (ドクター、あなたはフランス語ができるんですね。)とフランス語が聴こえました。振り返ると、背が高く色黒のいかつい顔の初老の男性でした。Oui.
Mais un peu seulment.(はい。でも少しだけですよ。)と答えると、「風の噂で聴いたんだけど、井高野でフランス語を話す医者が開業してると知ったんだ。今度、病気をしたら行くよ。」となまりはあるけれど、正確なフランス語で言われました。往診に急いでいたので、会話はそれだけでした。
往診から医院に戻ってから、この遭遇に関して少し考えてみました。あの風貌で少し訛りはあるが正確なフランス語ということから類推すると、フランスの海外県出身者の可能性が考えられます。タヒチ、ニューカレドニア、あるいはカリブ海の島々などが仏領海外県に含まれます。でも、何故、日本に住んでいるのでしょう。ひょっとしたら、日本国籍を持つ日系人なのかも知れません。
しかし、驚きは別に宣伝をしているわけでもないのに、私がフランス語を少し話すことを知っているということです。やはり、言語の違う異国に住むと、この種の情報には敏感になるのでしょう。
この遭遇の数年前には、地元の小学校に、フランス語も公用語である西アフリカの某国から転校生が来たことがありました。日本語がまったく駄目なので、何かと相談に乗って欲しいと校長から頼まれました。結局は医師が関わるような問題は起きず、その家族が木戸医院を訪ねることはありませんでした。西アフリカの人々が話すフランス語は、単純な語彙のみのフランス語なのです。我々非フランス語圏の人間からすると、彼等とのコミュニケーションは比較的容易なのです。ですから、この時は少し残念に思いました。
ということで、地元でも時々ですが、フランス語が必要な人が住んでいるということをお知らせしました。
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