19)帰りの飛行機が飛ばない!
2010年にアイスランドのエイヤフィヤトラヨークトルという舌を噛みそうな名の火山が大規模な噴火を起こし、その噴煙のため、ヨーロッパと各国をつなぐ航空路線がすべて止まってしまったことがありました。数週間飛行機が飛ばなかったように記憶しています。噴火前にヨーロッパから日本に旅行に来た観光客は、日本で足留めをくってしまいました。慢性の病気で毎日薬を内服している旅行者も多く、その人たちの大きな問題は、無くなったかあるいは、もうすぐ無くなる薬をどう調達するかでした。木戸医院にもフランス領事館を通して、何とかしてもらえないかとの問い合わせがありました。そこでここは何とか一肌脱がなければと、ある日の午後の診療のない時間帯に、木戸医院に集まってもらうことにしました。
関西で待機中のフランス人旅行者が10人程度集まりました。日本のそれも大阪という一応は設備の整った都市に滞在しているということもあり、皆けっこう落ち着いた雰囲気でした。一人ずつ診察室に入ってもらい、どんな薬を内服しているかを調べていきました。実際の薬を念のためということで、一錠ずつ残しておいてくれた人、フランスでの処方箋のコピーを持ってきた人、現物も処方箋もないけれど、商品名だけは覚えてくれていた人とさまざまな人がいましたが、薬の手がかりがまったく掴めない人は皆無でした。中には薬の商品名と一般名(学術名で世界共通)の両方を正確に覚えていた人もいました。このため、時間はかかったけれど、集まってくれた皆に日本で通用する処方箋を渡すことができました。
このように、フランス人は自分の服用している薬の情報については、かなり詳しく知っている人が多いのです。それは、健康保険の還付手続きを、日本のように医療側がするのではなく、患者側がすることに由来しているのかも知れません。そういえば、アメリカ人も自分の処方されている薬は大抵覚えていました。アメリカでも、健康保険はプライベートのものが多いですが、還付手続きは患者の仕事です。何でも医療側任せの日本では、自分の服用している薬まで、医師任せのような気がします。
この事件の次の年に、東日本大震災が起こるのですが、この時も家屋が医薬品ともに流されてしまった人が多く出ました。こういう時に、自分の服用している薬を例え部分的にでも覚えていると、応援に駆け付けた医療側の対応が非常にスムーズにいき、薬が早く手に入ります。この欧州と日本で連続して起こった、医療にも非常に関連のある大きな災害の後、一般の人を相手にする講演の際に、「飲んでいる薬の名前を覚えましょう。」ということを必ず伝えるようにしています。
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