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168)ババヤガの夜

 当ブログ167回「バター」の英国文学賞3冠の報道に続き、今度はやはり日本人女性作家、王谷晶(OHTANI Akira)の「ババヤガの夜」が「英国推理作家協会賞;ダガー賞」を受賞しました。この小説の主人公は、子供時代から祖父から有りとあらゆる格闘技を教え込まれ、それらを駆使して喧嘩に勝つのが何より楽しいという新道依子です。この依子がひょんなことから暴力団組長が溺愛する娘の用心棒になるのです。話はその後、二転三転して、確かに非常にワクワク感の多い小説です。

 この小説が何故、日本人初のダガー賞(ダガーはdagger; 短剣、暗殺の象徴のことです)を獲得できたかを、自称「異文化研究者」木戸が考察しました。先ず、依子の強さの理由が、柔道、空手、拳法などすべての武道に通じた祖父から叩き込まれたという日本の小説やドラマ、あるいはスポ根(スポーツ根性)ものの漫画で定番のストーリー構成であることです。私の読書歴からは、欧米の小説で日本のスポ根ものに相当するものに出会ったことはありません。次に日本のヤクザの暴力性と、それとは裏腹の妙に世間体とか面子(めんつ)にこだわる体質という西洋人にとっての分かりにくさがあることです。この辺の描き方がイギリス人のエキゾチシズムを掻き立てたのだと思います。この作品のSam Bett の翻訳のうまさももちろん一役も二役も買っているはずです。

 この快挙にすこし水を差すようで申し訳ないのですが、ヤクザというか、往時の任侠の世界でやたら強い女性と来ると、若かりし頃の藤純子(現富司純子)が演じた緋牡丹お龍があります。したがって、ヤクザ絡みの強い女というのは、日本では珍しくないフィクションの題材です。また、現代小説では暴力シーンと物語性が絶妙に絡み合った大沢在昌の一連の作品群があります。例えば30年ぶりに2025年に文庫で再発行になった「相続人TOMOKO」では、もとCIAエージェントだった無国籍の女性TOMOKOがある理由から古巣のCIAから命を狙われるという、やはり暴力シーン満載というストーリーです。この種の小説が英語国で好まれるのが証明されたのです。Sam Bett も日本の小説は読みまくっているはずですから、これからダガー賞クラスの日本のハードボイルド小説の英訳が英語国でどんどん読まれるようになるかも知れませんね。

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木戸友幸
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