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158)「いいかげん」を巡る考察

 「いいかげん」という言葉は、だらしないとかチャランポランとか意味で使われることが多いです。しかし、物の本によると「良い加減」の意味も含むとあります。私が自らの70年余りの人生を振り返ってみると、前者の意味での人の行動や言動が圧倒的に多かったです。しかし、後者の「良い加減」のケースも10回に一度くらいはあったように思います。

 学生時代に1ヶ月かけて、ロンドンを振り出しに南はシチリア島までバックパック旅行をしたことがあります。この時、旅の先々で同世代の若者と触れ合う機会が多くあり、彼(彼女)らが規則を守らないいいかげんな連中だなあと、かなりネガティブな感情を持ちました。例えば、アテネのパルテノン神殿を訪ねた時のことです。入場料を払う列で私のすぐ後ろにいた同世代の白人女性に「私の分も一緒に買ってきて」と依頼されました。直前の雑談から彼女は社会人で学生ではないことを知っていたので、私は自分の学生証を提示し、学生一人と大人一人と言って入場料を購入しました。すると、彼女は笑いながらですが、「日本人は皆あなたみたいにバカ正直なの?」と言いました。つまり、私が学生証を提示し、学生2枚と言えば、一人がそうではなくても学生料金でいけるのは、こちらではほぼ常識のようなのです。それ以外にも、若い旅行者の大半が常識と判断している日本人的にはいいかげんな行動を山ほど体験しました。

 さて、このヨーロッパ体験の後、無事に医大を卒業して3年目にニューヨークで3年間の研修医生活を送りました。ニューヨークはまさに人種のるつぼで、ヨーロッパの旅行者以上にいいかげんな人たちが多かったように思います。アジア系を含めた人種のるつぼの彼の地でこの状態なのです。ということは、日本以外の国では、この程度の「いいかげんさ」が「良い加減」なのかなと思い至るようになりました。

 1983年に帰国すると、日本はバブル景気に浮かれていました。しかし、そのバブルは90年を過ぎるとあっけなく崩壊してしまいました。国立病院勤務だった私はバブルになろうと、それが崩壊しようと生活にはまったく変化はなかったので、この現象について私なりに考えてみたのです。

 バブル崩壊で多くの名だたる銀行が数千億円の損害を被りました。知人の銀行関係の人たちに訊くと、バブルに関係なく日本の銀行に現場では終業時に1円でも勘定が合わないと、「いいかげんなことをするな!」と職員全員で何時間もかけて調べ直すそうです。その大銀行が、バブル期に上層部が出鱈目な融資を乱発し、莫大な損を出したわけです。

 ヨーロッパの事情を調べると、17世紀にオランドのチューリップへの投資が加熱してヨーロッパ各地でバブル崩壊があったそうです。そんな記憶がヨーロッパの人々のDNAに刻み込まれていて、人間あまりきっちりしすぎても、何が起こるか分からない、Don’t worry, be happy!(力を抜いて、良い加減でいこうぜ!)みたいな風潮が出来上がったのじゃないかなと睨んでいます。

 バブル時の日本は西洋風の資本主義体制に移って高々100年余りで、やはり国の経済に関する感性が政府も個人も鈍かったみたいです。1920年代後半に起こったアメリカのバブル崩壊による大恐慌も、資本主義の歴史の浅さからの様な気がします。

 私も人生のかなり後半部分に差し掛かってきました。これからは、できるだけ「良い加減」な言動と行動で、ゆとりを持って生活していくつもりです。

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木戸友幸
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