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151)The Plot Against America

 2023年秋から2024年春にかけて、フィリップ・ロスのThe Plot Against Americaという小説を読みました。ペーパーバックで460ページの長編小説で、半年かかって読み終えました。英語なのにどうしてそんなに長くかかったのかと思われるかも知れません。最近は私も主に趣味の世界で忙しいのです。常時、複数のフランス語書籍を読み、2024年初頭からは、自サイトでフランス語ブログも開始しました。夜は、最愛の友であるネトフリ鑑賞にも時間を裂かねばなりません。(別に義務ではなく、単に観て楽しいのですが・・・)もちろん電車の中では日本語の文庫本は必須アイテムです。ですから、英語書籍に充てているのは、週4回の特養勤務前の朝30分のセブンイレブンのイートインのみなのです。

 この小説は、2018年に亡くなったユダヤ系米国人作家、フィリップ・ロスが2004年に発表した作品です。1940年のアメリカ大統領選挙で、あの大西洋単独飛行に成功し、国民的ヒーローになったリンドバーグが現職ルーズベルトを破って当選するという破天荒な筋の小説なのです。こう書くと、何だか夢のある小説にも思われるかも知れませんが、リンドバーグは単独大西洋横断飛行に成功して、ヨーロッパでも人気者で、当時ナチス政権下のドイツでも彼は実際に国賓待遇で招待され、ヒトラーから勲章まで授与されているのです。これ以上の情報は、小説の重要な内容に関わる部分なので、ネタバレになってしまいます。ですので、本小説は、実際の近過去を実名の登場人物で描いたユダヤ系米人にとって悪夢の物語(ディストピア)であるとだけ言っておきます。

 小説の本筋とは少し外れたところで、興味深かったことがあります。私自身、1980年初頭の3年間を、研修医としてニューヨーク(NYC)で過ごしました。NYCはその他の米国の都市に反し、ユダヤ系住民がむしろマジョリティーの都市です。医師に限って言えば、白人医師のほとんどがユダヤ系でした。そういう事情もあり、米国では少なくとも第二次大戦ごろの近過去にはユダヤ人差別はなかったと思い込んでいました。しかし、この小説で描かれた1940年当時のユダヤ系市民の日常を読むと、そうではなかったようです。これはかなり意外でした。また、トランプ大統領時代のアメリカ・ファーストの主張や、アメリカ国民の分断化といった米国内部の諸問題を予想したかのようなエピソードも多く見受けられました。

 2024年5月現在、イスラエルのガザ地区でのイスラエル側の一方的な戦闘行為は米国内でも、特に大学生に大きな反感を買っているようです。これら現在のイスラエルや世界に散らばったユダヤ系の人々と非ユダヤ系世界との関係性や、ユダヤ系の人々の心理を理解する上で、The Plot Against Americaはタイムリーな一手段となると思います。

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木戸友幸
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