149)鳴かずのカッコー
前回(148回)とカッコー繋がりですが、これはまったくの偶然です。今回のタイトルは外交問題や諜報(スパイ)もののノンフィクションや小説が得意な手嶋龍一さんの小説のタイトルです。2024年2月に読みました。彼は元NHKワシントン支局長で、2001年9.11の米国同時多発テロの際、11日間にわたる24時間連続中継で一躍有名になった人物です。私自身は、当サイトで「湾岸危機コンフィデンシャル」を執筆した時、そのプロローグを彼の著書「外交敗戦―130億ドルは砂に消えた」を参考にして湾岸危機の概要を書きました。そのことがきっかけになり手嶋さんに興味を覚え、その作品はほとんど読んでいます。
このタイトルは、主人公の青年が職業としている公安調査庁職員の立場を表しています。カッコーという鳥は、他の鳥の巣に卵を産みつけ、その巣の持ち主の鳥に卵を温め、ヒナに餌をやるといった親鳥の仕事をすべてやらせるのです。公安調査庁は、公安警察や防衛省に比し、組織も予算も弱小で、逮捕権もないナイナイづくしの省庁なのです。しかし、国益につながる情報を収集するための諜報活動への情熱・執念にかけては、他の組織には負けてはいません。つまり、カッコーのように知恵を絞って、無から有を生み出す組織なのです。「鳴かずの」は、仕事柄、身分や手柄を誰にも言えないという意味です。
さて、この公安調査員の主人公、梶壮太の会社(この手の組織は身分を隠すために、自らの組織や庁舎をカイシャと呼んでいます)は我が街、神戸にあるのです。ですから、作品中に三宮のトアロードや旧居留地が出てきたりします。極め付けは、話の中で重要な役を演ずるウクライナ人の男性の居住地が、何と私が30年来住んでいる東灘区の六甲アイランドなのです。実名で出てくる神戸の街の細部描写も、しっかり取材ができていて正確でした。
この作品は、ウクライナ、中国、北朝鮮、ロシアと西側諸国との諜報合戦や、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻を予言するような内容も含まれており、諜報小説の王道を行くものです。それに加え、物語性にも優れており、主人公の年齢が若いこともあり、続編も期待できそうです。(本当はちょっとしたあらすじも紹介したいのですが、さすがにそれはねえ・・・。)
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