146)伊集院静さん、あれやこれや
伊集院静さんが、2023年11月に亡くなられました。彼の作品はつい最近になるまでほとんど読んだことはなかったのです。しかし、この30年くらい毎朝読んでいる日経新聞の連載小説に続けて2作、彼の作品が連載されてから、にわかに伊集院さんのファンになりました。
2017年のサントリー創業者の鳥井信治郎の一生を描いた「琥珀の夢」。2020〜2021年の夏目漱石の青春時代に焦点を当てた「ミチクサ先生」でした。特に「ミチクサ先生」の方は、連載途中で伊集院さんが、くも膜下出血で倒れ、1年間の闘病の末、連載を再開されたので、より印象が強かったです。漱石の青年時代を主に現存している手紙を資料にして、彼の交友関係(特に正岡子規との交友)や結婚生活などが描かれており、漱石自身の小説には親しんでいる私にとって、この連載中の朝のひと時は至福の時間でした。くも膜下出血を乗り越えての連載の再開という「事実は小説より奇なり」を地で行く展開にも、彼の小説にかけた情熱の大きさを感じました。
2017年の「琥珀の夢」の連載中のことです。某医学出版社から総合診療関係の座談会に出席するよう依頼を受けました。座談会は、その出版社のある東京で週末の午後に設定されており、一泊することを勧められ、いくつかのホテルを提示されました。そのうちの一つにお茶の水の「山の上ホテル」がありました。調べてみると、伊集院さんの執筆時の定宿であることが分かり、迷わず「山の上ホテル」に決めました。予約された部屋は、畳敷でベッドと文机がある如何にも昭和の雰囲気でした。伊集院さんが、その部屋で執筆したかどうかは調べようはありませんでしたが、何だか気分のいい一夜を過ごすことができました。
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