141)米国の高度成長時代
当ブログの132)ソフトパワーで、世界中を羨望させた1950年代からの米国の大衆文化について、軽く触れました。その項を書いてから、2022年末よりLucia Berlin著A Manual for Cleaning Womenを読みました。著者のBerlinは1936年生まれで、比較的裕福な鉱山技師の父に付いて、世界中の鉱山都市で幼年期から学生時代までを過ごしました。しかし、成人に達してからは、3度離婚し、アルコールと薬物依存症で入退院、はたまた懲役刑を繰り返します。彼女は、これらの体験を元にした半自伝的短編小説を1990年から執筆し始めます。2004年に亡くなるのですが、彼女が世に知られるようになったのは、亡くなってからなのです。そして彼女の死後A Manual・・・はNew York Timesのベストセラーに名を連ねるようにまでなったのです。日本語訳も出ています。
時代背景は1950年代から70年代なのですが、この頃が米国の大衆文化が一番輝いた時期で、日本も含め世界中で米国文化が持て囃された時代です。彼女の作品の中には、この頃の米国の一般人が愛用した日常の物品が商品名で書かれているのです。クリネックスのティシューペーパー、ハーシーのチョコパーなどです。また、作品中で観ていたテレビ番組にMan from UNCLが出てきた時には、「マジかよ!」と叫んでしまいました。1964年〜68年まで放映されていたスパイもののテレビドラマで、日本では「0011ナポレオン・ソロ」のタイトルで視聴率も高かった人気ドラマでした。当時、中学生の私も大ファンでした。しかし、実際の彼女の生活は、富裕家庭での家政婦や病院の救急室の受付とかのアルバイト的な仕事をしながらのかなり厳しいものだったのです。Lucia Berlinのこの著書を読みながら、もう一つの感想が、この10数年愛用しているカシオの電子辞書に入っているリーダース英和辞典の実力でした。このリーダースは版も古く新しい単語には弱いですが、古い単語(商標を含め)にはやたら強いのです。例えば、Laundromart: 商標。セルフサービスのコインランドリー。
Ex-Lax: Lax Distributing Co.,Inc.製のチョコレート風味の下剤などです。著者はスペイン語も達者でスペイン語教師をしていたこともあるのです。彼女がメキシコ料理店でtamaleを食べたという描写があったのですが、tamale: 挽き割りトウモロコシとひき肉を混ぜ、唐辛子で味付けし、トウモロコシの皮に包んで蒸す(焼く)メキシコ料理と詳細な解説がありました。
実は、米国の高度成長時代の残り香を辛うじて嗅げる1980年代前半の3年間をニューヨークで過ごした私は、随分前から米国のこの時代に非常に興味があったのです。10年以上前に読んだデイヴィッド・ハルバースタム著のザ・フィフティーズがその教科書でした。これは、新潮OH!文庫で各巻500ページ強の3巻ものです。米国の50年代を国内および国際政治・経済、人種問題、大衆文化 etc, etcの幅広い分野に渡り詳細に描写、分析しています。ハルバースタムは、米国を代表するジャーナリストでピューリツァー賞受賞者でもあります。しかし、残念ながら2007年に73歳の若さで自動車事故で亡くなってしまいました。
このハルバースタムから得た基礎知識があったからこそ、小説家のLucia Berlinの作品をより楽しめたのだと思います。
PS 「0011 ナポレオン・ソロ」で主人公ソロの相棒を務めたイリア・クリアキンを演じたデビッド・マッカラムが2023年9月25日に、NYCで老衰のため亡くなったという記事が9月26日、各誌で報道されました。合掌。
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