135)La pesteと L’etranger
今回のタイトルは、ペストとエトランジェ(異邦人)です。そうです、あのカミュの2大名作です。ペストの方はコロナ禍の最中、日本でベストセラーになりましたね。私もこの現象に貢献した一人で、日本語訳は、学生時代に読んだことがあるのですが、筋はほとんど忘れていたので、2021年に原書をアマゾンで取り寄せ、読み始めました。2016年に開業を辞めてから、自由時間が増え、それまでにフランス語の小説は何冊か読んでいたので、気楽に構えていたのですが、ペストは控えめに言ってもかなり難解でした。主人公のリウは医師で、主題が感染症なので診察場面や症状の描写などには問題はありませんでした。しかし、この小説には章立てがなく、延々と200ページに渡り物語が続くのです。リウ自身やその他の登場人物の心理描写の表現法が極めて抽象的でかつ婉曲表現を多用しています。普通の描写も難解な語彙を連ねた長文なので、途中で何度も挫折しそうになりました。その度に時々、書店で新潮文庫の相当のページだけを立ち読みしたこともありました。しかし、読み終えた時は、かなりの感動と達成感を味わえました。彼がノーベル賞作家というバイアスもあるのでしょうが。現実的なメリットもありました。私が院長をしている特養で新型コロナのクラスターが発生し、悪戦苦闘していた時期だったので、精神的な支えになってくれたのです。
ペストを読み終え、少しカミュ攻略に自信がつき、もう一つの代表作の異邦人も原書で読み始めました。こちらの方も学生時代、翻訳で読んでおり、ペストに比べるとページ数も格段に少なかったので、筋もうっすら覚えていました。しかし、ペストの時のトラウマから恐る恐るフランス語を読み始めました。10ページくらい読み進んだところで、意外に読みやすいことに驚きを覚えました。読了までに8ヶ月かかったペストと比べ、70ページ余りの短編とはいえ、異邦人は1ヶ月で読了できました。ひょっとして難解なペストを読み切って自分のフランス語能力がかなり上達したのかと一瞬自惚れたのですが、冷静に考えるとそうではなさそうでした。まず、異邦人には章立てがあり、読み手の考えがまとまりやすい。また、個々の文章も短く、会話が多い。会話の内容も日常的な具体的な内容が多いといったことが、フランス語として理解しやすい理由でした。主人公のムルソーは、知識人とは言い難い普通のフランス人労働者で、その他の登場人物も同じ階層のフランス人です。その普通のフランス人が犯した不条理な殺人事件の顛末が、この小説の主題なのです。
このカミュの代表作2つを立て続けに読み、もちろんフランス語の勉強にも役立ったのですが、カミュの小説を通しての彼自身の思想の伝え方の巧みさに、感心かつ感動した次第です。
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