13)パリ生活の中での異文化コミュニケーション、その3
さて、前回はフランスの食文化のハイエンドのほうの話をしました。今回はフランスのB級グルメといったらちょっと失礼にあたりますが、庶民が親しんでいる食文化に触れてみたいと思います。
前回述べたように、パリでは時々、魔法の必要経費を使って高級レストランで食事をしていましたが、日頃使うのは普通のレストランです。レストランというより、庶民が集うビストロと言ったほうがいいでしょう。そんなビストロの中にも、キラリと光る料理を出してくれるところが多くありました。こう言う情報は、グルメと称される人たちの口コミ情報に耳を澄ましていれば自然に集まってきます。また、星付きレストランのオーナーシェフが、弟子を送り込んで、庶民的な値段のレストランを開業することがあります。これは、アンテナショップ的なもので、ここで冒険的な試みをして、それを本来の星付きレストランで生かすという手法です。この情報は、グルメガイドを丹念に読めば見つけることができます。
フレンチだけではなく、パリで人気のある中華料理店でも、なかなか洒落た店が多かったです。ハイエンドは、レストラン・サンスーシ(=No
Problem)で、ここは中国高官がパリを訪問すると、必ず訪れるといわれている店です。私も、この店で有名な俳優のルパルデュを見かけたことがあります。
私の住んでいたアパートから歩いて5分のところにも、中華の店がありました。ここは近いということもあり、週に一度は訪れていました。中国人が夫婦でやっている店ですが、なかなか美味しいかったです。また創意工夫もできて、日本風ラーメンを説明したら、ちゃんとした醤油ラーメンを作ってくれました。そこにフランス食文化のエッセンスも付け加えられています。ちょっと甘めの味付けの具沢山海鮮鍋に合うワインをスージー(ウエイトレスを務める奥さんの愛称です。)に訊くと、ミュスカデの白を選んでくれました。この相性は抜群で、パリ時代、疲れた時、ちょっと嬉しいことがあった時など何でも理由を付けて、スージーの中華でこの組み合わせを注文したものです。
現在、私は神戸市東灘区の六甲アイランドという人工島に住んでいます。東灘区にも、美味しいフレンチレストランは多くあります。それらもやはり、どちらかと言うとパリのビストロ的なものです。ハイエンドは、もちろん三宮や元町にあります。残念ながら六甲アイランド内には、なかなかいいレストランが育ちません。いい店は、対岸の御影や住吉周辺にあります。御影・住吉は、芦屋の山手ほどではなくとも、昭和の初期から、そこそこ経済的に余裕のある住民が、洒落た都会生活の文化を育ててきた街です。したがって、味と雰囲気が良ければフレンチレストランにも、そこそこの出費を惜しまない余裕があります。そういう歴史的背景のなさが、新興の六甲アイランドで良い店が育たない理由なのでしょう。
やはり、食は立派な文化だと思います。
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