Dr.Kido History Home
E-mail

国際医療協力

ボタン Dr. 木戸流「異文化コミュニケーション」 ボタン

123)花と龍

 「花と龍」、何か往年の任侠映画のタイトルみたいですね。実はその通りなのですが、今回の話はかなり読み応えのあるポイントが多いと思いますので、じっくり読んでくださいね。

当ブログ93)「アフガンの罪人と聖人」で中村哲医師のことを書きました。その頃、私の異文化ブログのファンの一人で、私より5歳年上の男性がこの93回号の中村氏の話を大層気に入ってくれたのです。彼は当時、私の患者で、元任侠の人でした。わざわざ任侠と書いたのは、「義を見てせざるは勇無きなり」を自で行くような人で、もちろん中村氏の業績には通じておられ、それをイギリスの新聞が高く評価してくれたという話に感激してくれたのです。その時、彼が私に変わったことを勧めてくれました。「センセ、古い小説で『花と龍』いうのがあるんやけど、いっぺん読んでみなはれ。色々面白い発見がありまっせ。」と。

 さて、この小説は日野葦平(ひの・あしへい)という作家の作品で、読売新聞に1952年ということは私が生まれた一年後から連載されました。単行本化されると大ベストセラーになり、その後何と6回も映画化されました。北九州の若松で大親分と慕われた玉井金五郎の一生を描いた長編小説です。(400ページの文庫本上下)親分と言っても、今で言う暴力団ではなく、沖仲仕(おきなかし)を束ねる玉井組を仕切っていたのです。右翼の暴力団とは正反対で、沖仲仕の組合作りに奔走したこともあるくらいです。しかし、当時の若松は暴力団的な組が林立し、自衛は必要だったのです。玉井親分は、自分から仕掛けることはなく、夜討が予想される時には若いものには明かさず、秘蔵の日本刀片手に一人で組を守るといったこともありました。高倉健さんの任侠映画のようですね。実は、6回映画化されたうちの1回は、健さんが主役の玉井金五郎を演じているのです。タイトルの「花と龍」は金五郎があるひょんな出来事から腕に彫ることになった菊を咥えた龍の刺青から付けられたものです。

 日野葦平という作家は名前は知っていましたが、その作品は読んだことはありませんでした。実は、彼は本名、玉井勝則といい、そう、金五郎の長男なのです。そして極め付が、彼は中村哲医師の叔父に当たるのです。ですから、中村氏は金五郎の孫ということです。中村氏は生前、あるインタビューに答えて「祖父からは、損得を考えず、人の為になることをやれと子供の頃から言われていました。叔父の生き方にも共感し、一時は物書きになろうと思ったこともあります。」と語っていました。

 この小説を貪るように読み、ネットで関連情報を隈無く収集し、自ら大満足に浸った後、この貴重情報を教えてくれた「元任侠氏」にこれらの発見を伝え、素晴らしい情報を教えてくれた礼を言いました。彼は「センセやったら、ちゃんとそこまで調べてくれると思とったんや。」とニンマリ笑ってくれました。

| BACK |

Top


木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp