122)アインシュタインの戦争
2021年末にEinstein’s War (written by Matthew Stanley, Dutton)というタイトルのノンフィクションを読了しました。若きアインシュタインが相対性理論を発表しますが、自国ドイツではなかなか理解者が出てきません。当時、この理論を証明する手段としては、皆既日食観測時の測定値によるものしかなかったですが、運悪く第一次世界大戦が勃発します。ドイツはヨーロッパの嫌われ者になり、とりわけイギリスからは、総スカンを食います。
この日食の観測は、世界中で一番条件のいい所で行わないと正確な天文学的な結果が残せないので、国際的なチームを組んですることになっていました。それを仕切っていたのがイギリスの王立天文台だったのです。当時の館長がエディントンというアインシュタインと同世代の良心的兵役拒否を主張するクウェイカー教徒でもある天文学者で、物理学にも関心が強い人物だったのです。彼は戦争勃発後、ドイツの科学者と交流が取れなくなったことを嘆いていました。
そんな頃、友人を介してアインシュタインの相対性理論の初期の論文を目にする機会があったのです。エディントンはその意義を直ちに理解し、またその証明には、自らが指揮をとる皆既日食の測定が唯一の手段だということも彼には分かっていました。しかし、大戦中ドイツ人は科学者も含め憎っくき敵。また、アインシュタインの理論はイギリスの誇りであるニュートンの万有引力の法則の否定にも繋がるのです。エディントンは、これら万難を排して大戦直後の1919年の皆既日食観測を敢行し、相対性理論を証明して見せたのです。
というわけで、Einstein’s Warというタイトルは、第一次世界大戦と、それに伴うアインシュタインの理論に対する様々な逆風に対する彼自身の戦争という二つの意味が含まれていると思うのです。
アインシュタインは1921年にノーベル物理学賞に輝き、今でも20世紀最高の知性と言われています。このノーベル賞の高額賞金を彼は離婚した元妻への生活費として贈与したということは有名な話ですね。ところが私も知らなかったもう一つの事件が、この本に書かれていました。
彼は研究所の秘書として、元妻の連れ娘(ということは彼とは血縁なし)を雇ったのです。何とその彼女と恋愛関係(=男女の関係)に陥ってしまったのです。その時、彼は元妻とはまだ離婚が成立していなかったのですが再婚予定の女性と同棲していたのです。というわけで、世紀の天才物理学者アインシュタインは、研究でも私生活でも全く自由で奔放であったのです。それでも彼は十分すぎる成果を残し、21世紀に入っても天才の名声をほしいままにしています。ちょっと羨ましい人生だなあと思うのは私だけでしょうか。
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