118)「燃えよ剣」の異文化的考察
2021年11月、映画化された「燃えよ剣」を観に行きました。封切りから二週間経った平日の午後でした。新型コロナもかなり落ち着いていた頃とはいえ、8割がたの入りには少しびっくりしました。20年前に感激して読んだ司馬遼太郎の原作をどう映画化しているのかと、怖いもの見たさの気持ちもあったのですが、どうして原作に忠実でもありますが、映像的にも個性を出し仲々のものでした。また、主役土方歳三を演じた岡田准一とその愛人のお雪の柴咲コウの演技も見応えがありました。
「燃えよ剣」の主題は、新撰組の滅びの美学、義理人情の世界観、それを自ら体現した土方歳三の一生だと私は20年前に原作を読んだ時に思いました。そこは、この映画でもよく押さえていました。しかし、私がこの作品を異文化ブログに取り上げた理由は、物語の大筋からは外れていますが、フランスの関与なのです。
当ブログの77回で書いたように、当時、日本の利権を虎視眈々と狙い、日和見的態度に終始した海外列強の中でただ一国だけ一貫して徳川幕府を支援していたのがフランスなのです。戊辰戦争以降、敗戦一方の幕府軍は北へ北へと敗走し、最後は函館五稜郭に辿り着きます。何と、結果的には官軍が最終勝利を勝ち取るこの函館五稜郭でも、フランスの軍事顧問が複数で幕府軍の軍事指導をしていたのです。流石にフランス軍事顧問団は幕府軍と運命を共にすることはなく、最後の決戦の前に帰国するのですが、原作でも映画でも、顧問団の団長Jules Brunet(ジュール・ブリュネ)が土方と会見し、「あなた方幕府軍の力になれて光栄に思います。」と握手を交わす場面があります。私がここで思い出したのは、往年の高倉健が演じた任侠映画でのドス一本での単身殴り込みのシーンです。
私の2年半のパリ生活の経験からして、フランス人は個人主義で自由を好む国民性を持ってはいますが、映画や小説のフィクションの世界では、意外に義理人情を好むところもあるのです。ですから、この映画をフランスに持って行けば、結構受けるのではないかと思っている次第です。
付録:
映画「燃えよ剣」を観た2ヶ月後の2022年の1月に小説「ラ・ミッション; 軍事顧問ブリュネ、文春文庫」を読みました。この作品は歴史小説の得意な佐藤賢一が執筆したほぼノンフィクションに近い小説で、ジュール・ブリュネの日本での活動を描いたものなのです。一つだけ明らかなフィクションがあります。それは、土方が函館で戦死せず、フランス人に変装し、フランス軍事顧問たちと共に渡仏するというエピローグです。物語としても楽しめる「ほぼノンフィクション」です。
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