117)グレープフルーツジュース
3人の息子たちが幼児の頃、テレビの「お母さんといっしょ」という子供番組で「僕のミックスジュース」という曲が流行っており、そのサビの部分が「こいつをググッと飲み干せば、何かいいことあるかもよ」という歌詞でした。私の場合は物心ついた頃からこれが、ミックスではなくてグレープフルーツ ジュース(GFJ)でした。医師になってから(ということは、自分で自由に金が使えるようになってから)は冷蔵庫にいつも買い置きしていました。 20代後半から研修医としてニューヨークで生活するようになってからは、旅行や会議などで海外、国内共にホテルに宿泊することも多くなりました。ホテルの朝食では、何種類かのジュースが用意されていますが、世界中どこでもGFJは必ず用意されています。朝にあの少し苦味のある冷たいGFJをググッと飲み干した後、クロワッサンをカフェオレと共に、半熟卵を最後に食べれば元気モリモリで、どんな会議でも発表でもこなすことができました。
この30年余り住んでいる神戸の自宅の近くのコンビニでも、GFJをよく買いますが、2018年以降、店頭からGFJが消えてしまったのです。調べると日本のグレープフルーツの大半がアメリカ、それもフロリダから輸入されているのです。2017年秋にそのフロリダをハリケーンが襲い、翌年からGFの収穫量が激減したのです。ついこの間の2021年7月よりコンビニにもGFJが並ぶようになり、ホッとしています。
1980年の後半ごろから、世界を飛び回るビジネスマンが、ホテルの朝食でGFJを飲んだ後でフラついて倒れたり、気分が悪くなるといった報告が相次ぎました。色々調査してみると、この症状を起こした人たちの殆どがカルシウム拮抗剤という種類の降圧剤を服用していることが分かったのです。さらなる研究により、GFJの苦味成分がこの降圧剤の肝臓での分解を邪魔することにより降圧剤が効き過ぎて低血圧発作が起こるということが分かったのです。カルシウム拮抗剤は現在でも降圧効果が高い薬剤なので、多くの人が服用しています。ですから、医師も薬剤師も初めてこの薬を飲み始める患者には必ずGFJを避けることを注意します。そのせいもあり現在、高血圧患者さんにとっては、このことはほぼ常識になっています。
私自身は2021年の誕生日で70歳になりましたが、幸い血圧は正常でこれから先もGFJをググッと飲み干して、何かいいことを期待できそうです。
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