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115)NHK語学番組のよもやま

 2021年7月に英語教育研究者の鳥飼玖美子さんの自伝的作品「通訳者たちの見た戦後史、月面着陸から大学入試まで、新潮文庫」を読みました。鳥飼さんは私より5歳上なだけで、英語に関心のある人間としてほぼ同じ時代を生きてきたので、非常に興味深く読めました。その中で鳥飼さん自身も様々な関係を持ったテレビ・ラジオの英語番組の話も多く書かれていました。私もこれらの番組を大学受験浪人中と大学に入っての数年間、随分頻繁に利用させてもらったので、面白いエピソードがいくつかありました。今回はこれらをご紹介したいと思います。

 この本にも何度も登場するのですが、國弘正雄さんという英語の達人がいました。1970年代初め頃だったと記憶していますが、民放テレビで30分ほどの英語でのインタビュー番組を持っておられました。当時もNHKにはテレビ英語講座はいくつかのレベルで存在したのですが、どれもネイティブが出演するスキット(寸劇)を使って講義するものでした。しかし、國弘さんの番組はインタビューする相手にほぼアドリブで丁々発止の英語で対談をしていたのです。恐らくある程度の事前打ち合わせくらいはあったと思いますが、それは日本語のインタビュー番組でも同じことです。言いたいことは、当時の日本の英語教育番組でこの種のものは初めてだったということです。当時は現在のように、CNN(まだ存在もしていなかった)のような本場の英語での討論番組を普通の日本の家庭でテレビで観ることは叶わず、この國弘さんの番組を欠かさず観ていたように思います。

 大学に入学してからは、YMCAの英語学校の夜間クラスに週3回通うようになっていたので、國弘さんの番組を観ることは少なくなりました。その代わり、NHKテレビ、ラジオ両方のドイツ語とフランス語の語学講座をよく観聴きするようになったのです。ドイツ語もフランス語も初めての外国語だったので、初学者にとっては、NHKの語学講座は非常に役に立ちました。

 ドイツ語講座で人気のドイツ人ゲストがいました。私も彼のファンの一人で未だにフルネームを覚えています。ミヒャエル・ミュンツァーさんといいます。彼はNHKのテレビもラジオも、ラジオは基礎と応用の二つの講座がありましたが、その両方に、つまり日本の電波のドイツ語講座のすべてに出演していたのです。ある日、テレビのフランス語講座を観ていると、何とそこにもミュンツァーさんが出ているではありませんか。フランス語講座のスキットで、片言のフランス語を喋るドイツ人観光客の役で出演していたのです。ミュンツァー恐るべし。ところで私には、ミュンツァー関連で一つだけ誇大妄想的懸念がありました。もし彼がドイツ語の構文や発音で、何か個人的な癖や自分でも気づいていない誤りを持っていたら、当時の日本のドイツ語初級学習者の全員が同じ過ちを犯してしまうんじゃないだろうかということです。それは確かにお前の誇大妄想だって?
 この日本中で誰も知らないようなトリビアを思い出させてくれた鳥飼玖美子さん、ありがとうございました。

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木戸友幸
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