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111)日本人の点滴好き

 風邪にせよ下痢にせよ、医院を受診する患者さんで、点滴を希望する患者さんはいまだに多いです。医学的に言うと、点滴が必要な場合は、重篤な脱水症があり、口から水分が摂れない時か、これまた重篤な感染症があり、点滴で早く抗生物質を入れる必要がある時くらいしかないのです。ですから、プロのスポーツ選手が点滴をして試合に何とか出場したといった報道記事は、眉唾で読むほうがいいです。

 ところで、日本人は他国の人に比べて点滴が好きなのでしょうか?少なくとも、私が診療をした経験のある、アメリカとフランスの国民に比べると日本人はかなり点滴好きです。パリ・アメリカン病院では、多くの日本人患者を診ていましたが、やはり風邪や下痢の時には、点滴を希望する患者が多かったです。病院のシステムとして、点滴をする時は、救急部の処置室ですることになっていました。救急部の医師は、アイルランド人やイギリス人といった英語国の医師が詰めているのですが、日本人を連れて行くと、彼らは、医学的にみて点滴の適応が無いと言って、点滴をするのを嫌がることが多かったのです。そこで、私は「日本人には点滴信仰があるので、そう杓子定規にとらないで点滴してあげてよ。電解質液を入れるだけだから、副作用が出るわけじゃないし、あなた達にも診察料が入るんだから。」と何度か具体的に説明付きで頼み込むと、文句を言わずにやってくれるようになりました。

 時代をさかのぼって80年代に大阪で勤務医をしていた頃のことです。時々救急当直を依頼されて行く、生野区にある某病院がありました。ここは地域柄、在日韓国人、朝鮮人の住民が多いところでした。救急で、特に在日一世の患者が来ると必ず注射か点滴を希望されました。

 木戸医院で開業していた頃のことです。医院の近くに中国人コミュティーがあるのですが、中国人患者も、注射と点滴を好みました。そうすると、点滴好きは日本というより、東アジア圏の医療文化なのかも知れません。

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木戸友幸
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