11)パリ生活の中での異文化コミュニケーション、その1
パリ生活の中での個人的な異文化体験をいくつかご紹介してみます。まずは、パリの公務員に苦労させられた体験です。
フランスは1980年代には、社会党党首のミッテランが大統領だった国で、未だに公務員が大きな権限を有していて、そのサービスもあまり良くない国です。来仏直後の滞在許可証の申請がフランス公務員相手の最初の試練です。ここでのサービスの悪さは、衆目の一致するところです。詳細は当サイト「パリ・アメリカ病院便り」をご覧ください。
パリの古いアパートで生活をしていた時に、フランス電気公社の手違いから電気を止められてしまったことがあります。この原因は、恐らくTomoyuki
Kidoの名で送った電気料とKido Tomoyukiで送った電気料が何らかの理由で、向こうで混乱を生み、電気料未払いと判断されたらしいのです。いったんそう判断されてしまうと、それを元に戻すのはフランスの公務員相手では至難の業なのです。私のフランス語能力ではそれは不可能でした。そこで、泣きついたのがフランスからの帰国子女で、こちらでもフランス語を使って仕事もしている知人の日本人でした。事情を話すとちょっと難しいけれど、やってみましょうと、すぐに電気公社に電話してくれました。後学のために、その会話を聞き漏らすまいと私も隣で耳を澄ましていました。「ドクター・キドの秘書の○○です。彼のアパートの電気が止められて非常に困っています。理由は、姓名の順序の混同によるもので単純なミスなのです。電気料を支払っていることは確かめてもらえば間違いないはずです。ドクター・キドは体力に自信がなく、この冬の時期に電気を止められるといつ倒れるかもしれません。アメリカン病院でただ一人の日本人医師のドクター・キドが働けなくなると3万人のパリ在住の日本人の健康は誰が守るのでしょうか?あなたにその責任がとれますか?もしそういう事態に陥ったときは、この件についての告発状をあなたの上司に送らなければなりません。」相手側の不安感を最大限にあおる、威嚇と脅かしに満ちた内容でした。瞬時にこの対応ができる能力に感心するというより唖然としてしまいました。
その日の夕方にアパートに戻ると、コンシエルジュのおじさんが「さっき電気公社の人が来て何か工事をしてすぐ帰ったよ。」と教えてくれました。スイッチを入れると、電気は回復していました。
フランスの公務員は、滞在許可証取得の時に役にたった医師のフランスでの開業許可証や、今回の停電騒動の時の職員脅迫といった、権威か脅かしを駆使しないと動いてくれないようです。公務員は洋の東西を問わず、仕事は最小限の努力でこなすと共に、こういう責任追及の姿勢には極端に弱いという特徴を持っているようです。こう言ってしまうと、異文化体験にはなりませんね。
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