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106)ジーン・ハックマンの思い出

 皆さん、ジーン・ハックマンをご存知ですか。1951年生まれの私の年齢に近い人だと、ハリウッドの俳優だということくらいは知っていることが多いです。映画好きの人なら、中々個性的で味のある俳優だったくらいのことは言ってくれるかもしれません。2021年現在91歳で存命ですが、もう業界は引退しているようです。

 さて、私がハックマンのことを初めて知ったのは、大学2年の時でした。その頃(1970年代前半)私は大阪のYMCA英語学校の夜間クラスに週3回通っていました。3回とも別の先生が受け持ちで、その中の一人が生徒にディベートをさせるのが好きで、ある時、当時封切られていたポセイドン・アドベンチャーというハリウッド映画を題材にしてディベートをするので、確か2週間の間に映画を観ておくようにという指示が出ました。何とか時間を捻り出して梅田の映画館でこの映画を観ました。すると、これがなかなか面白い作品だったのです。豪華客船ポセイドンが、航海中に津波に襲われ転覆し、上下逆さま状態になってしまうのです。主役がハックマンで、行動派の若手神父の役で出ていました。彼が数人の乗客を先導して、船の底(実際は上層階の食堂)から一番上(実際は船底)までたどり着く間に起こった出来事を描いています。その他大勢の乗客は、食堂で同席していたパーサーの指導でその場に居残り救助を待つ決断を下したのです。そしてその直後に船の小爆発による浸水で水死してしまいます。
 ハックマン扮する神父がいつも説教していたのが「神は答えを求めて努力する人を助けてくれるのであって、万人を助けるわけではない」ということだったのです。まあ、この辺りがディベートのポイントであろうと想像できました。ディベートの内容までは覚えていませんが、生徒は全て映画を観ており、気に入ったようで、授業は大変盛り上がったことは記憶に残っています。

 ジーン・ハックマンをこの変わったキッカケで知った私は、この役者を好きになっていました。ポセイドンの数年前に彼がポパイというニックネームの刑事役で主演したフレンチ・コネクションをリバイバルで上映している映画館を見つけ(当時、映画のビデオはまだ世の中に存在しなかった)この作品も気に入ってしまいました。ポパイは麻薬取り締まり係の刑事で、フレンチ・コネクションでは、舞台がニューヨークはブルックリン。何日もの張り込み捜査の末、犯人逮捕には至るのですが、そのほとんどが微罪に終わってしまいます。そのリベンジとも言える続編が、麻薬の供給元のフランス、マルセイユにまでポパイが出張して活躍するフレンチ・コネクション2なのです。この二つの舞台で何か気づかれたことはありませんか?そうです、その後の私は、ブルックリンの病院で3年間の研修医生活を送り、そのまた10数年後には、マルセイユではありませんが、フランスはパリで2年半の開業医生活を送ることになります。

 YMCAでアメリカ留学のための英語を勉強し、その授業でハックマンを知り、その彼の作品の舞台がブルックリンとフランスだったのです。この医学生の時の体験は何だか私の未来を予知させるような感じがしませんか。 実は、この逸話は随分長い間、忘れていたのですが、ひょんなことであのハックマンの人懐っこい笑顔が脳裏に浮んで来て、動画サービスで検索してみるとポセイドン・アドベンチャーもフレンチ・コネクションもアマゾン・プライムに入っており、2020年の年末に貪るように観たのです。これらの作品を観終わり、つらつら考えた結果、この「未来予測話」に行き着いたということです。

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木戸友幸
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