L'ETE
1975(8)
8)学食を巡るエピソード続
夏期講習に参加している何百人かの学生のほとんどが学食を利用するわけですから、当然食事時の込み方はかなりのものでした。食事が品切れになることはまずなかったのですが、一時的に足りなくなるものが、食器をのせるトレイでした。これがないと、そこで列の進行が止まってしまいます。お腹が減っている時は人間皆短気になります。そこで、始まるのが「プラトー、プラトー」のシュプレヒコールです。プラトーとはもちろんトレイを表すフランス語です。このシュプレヒコールが始まると5分で、洗ったばかりの新しい「プラトー」が出てきます。
この学食はこの時期、グルノーブル大学のフランス語夏期講習受講者のみが利用できることになっていました。ですから、レジで受講者に支給されている食券を渡さなければなりません。実は、受講者でない外部の若者も学食の評判を聞きつけてよく来ていました。そういう連中は、親しそうにすり寄ってきて、食券を売ってくれとか、もっと厚かましいのになると、一食分恵んでくれとか言うのです。私もたまに、そういう連中に食券を融通してやったことはありました。
ある時、私はスペイン人の女性二人と学食に食事に来ました。そこにやはりスペイン人の男性が寄ってきて、食事を一緒にしていいかと言います。最初は我々も愛想よく対応していたのですが、その彼の目的は食券を融通してもらうことだったのです。それが判明したとたん、連れのスペイン人女性二人は、強い口調で「ここで勉強もしていないあなたに融通してあげられる食券なんてない!」と同胞の男性に対し言い放ちました。そして、私のほうに向かって、「トモユキは優しすぎるのよ。こういう連中にはこれくらい言わないと分からないの。」と言ってにっこり微笑みました。
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