L'ETE
1975(25)
25)パリでの奇跡 続
デイヴィッドとはすぐ連絡がつき、彼はカルティエ・ラタンにすっ飛んで来ました。アパートを見るなりすっかり気に入り、管理人のフランス人のおばさんに、知っている限りのフランス語でお世辞を言い、挙げ句の果てはル・シアン・トレ・ミニオン(この犬かわいいですね)と傍でじゃれている犬まで褒め始めました。おばさんは、デイヴィッドが気に入ったようで、最後の空き部屋を貸してくれました。
彼は典型的なお人好しのアメリカ人で、彼にとって最高の宿を紹介してくれた私にも何度も礼を言ってくれました。
デイヴィッドが荷物を自分の部屋に運び込み、少し落ち着くとちょうど午後5時頃になっていました。彼の部屋からマリアに電話すると彼女はすぐ電話に出ました。結局は我々のアパートのある界隈の学生街で、適当なレストランを見つけて夕食をとろうということになったのですが、マリアの要求が、ああでもない、こうでもないととりとめがなく、電話の途中でデイヴィットと私は顔を見合わせため息をついてしまったくらいです。電話を終わってからの双方が同時に言い合ったのが、「マリアは世間知らずのお嬢様」というものでした。「まあ、それでも美人だから許すか」というのが、次の共通意見でした。
3人のカルティエ・ラタンの学生向きレストランでの夕食は、それでも非常に楽しいものになりました。国籍の違う3人の若者が、フランスという異国で、グルノーブルでのフランス語夏期講習という共通の話題を持って、それもパリでの奇跡的な再会という劇的な状況で語りあう。最高の青春ドラマでした。しかし、少しは期待していた「ロマンティックな雰囲気」はまったく生まれなかったです。恐らく、ここに私がいなくてマリアとデイヴィットの二人きりでの夕食であっても、そういう雰囲気は生まれなかったと思います。我々男性陣も今から振り返ると子供でしたが、マリアがそれに輪をかけて子供だったからです。今になって思いますが、その時マリアがあと10歳年上だったら事情はかなり違ったかもしれません。
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