ブルックリンこぼれ話(37)
無礼者!
小児科のローテーションのときのある当直の夜のことです。
患者の父親が子供の病状 について尋ねたいというので対応しました。すると、彼は子供はまったくよくなっていない、どんな治療をしてるんだと怒りだしたのです。こちらは冷静に対応し、違う角度からの再説明を試みました。でも、どんな説明も彼には火に油を注ぐ如くで、彼の怒りはどんどんエスカレートしてきます。これはもう僕の力ではどうしようもないと思い、その夜の上級レジデントのドクターGを連れてきました。ドクターGはインド人なのですが、何でもかなり上級カーストの出身らしく、気位が高い男なのです。
彼は、その怒り狂う父親に、最初は穏やかに説明を始めましたが、その我慢は10分も持ちませんでした。その父親のかなり汚い英語表現に完全にキレてしまい、何と彼を追い返してしまったのです。「ドクター・キド(彼はすべてのレジデントをファーストネームではなく、ドクター付きで苗字で呼んでました。)、こんな失礼な言い方をする家族には、もう何も説明をする必要なないから。患者は医師にもっと尊敬の念を持つべきだね。」とまったく意に介してないようです。幸い、この件は特に事件になることはありませんでした。
小児科ローテーションを離れてからも、ドクターGとは時々院内で顔を合わせることはありました。ERのローテーションの時のことです。成人男性が、高熱と発疹で受診しました。その発疹は水痘のように思えるのですが、当時まだあまり臨床経験がなかったので、自信がありませんでした。
周りの内科のレジデントに訊いても、水痘を診た経験のある者はあまりなく、皆自信が無さそうな返事でした。すぐ近くの小児ERの方へヘルプを求めに歩いていくと、ちょうどドクターGと鉢合わせしました。彼は気安
く成人ERまでついて来てくれました。患者を一目みて、「これは100%水痘だよ。大人に出ると診断はなかなか難しいんだよ。さすがドクター・キドは僕の教え子だ。」
と威厳たっぷりに彼は言って、そのまま大股で去っていきました。
このように、なかなか頼りがいもあるドクターGですが、訴訟の多いアメリカで、今 どんな診療をしているのでしょうか。少し心配になってきます。
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