ブルックリンこぼれ話(3)
全国ネット中継
第二話を受けての第三話です。僕がレジデント生活をおくった三年間にキングス・カウンティ病院が全米全国ネットのテレビニュースの舞台になったことが一度だけあります。あんまりいいことでじゃ無いだろうって、その通りです。その顛末を御紹介します。
この病院では、監獄病棟(Prison Ward)というのもあり、そこには凶悪犯で入院が必要な患者が入っています。一度その病棟にコンサルテーション(依頼を受け診察に
行くこと)で行ったことはありますが、病棟に入った途端、後ろでガッチャンと鍵を 閉められるのにはあまりいい気がしませんでした。
そういう関係もあり、外来にも服役中の犯罪者が受診することが多いのです。ある日、軽い外傷の囚人患者が受診中に逃走したのです。その患者は地下室に逃げ込み、人質
をとって立てこもりました。それが、午後のまだ日のある時刻でした。警察が遠巻きにして、説得を試みますが、犯人はろう城を続けました。それでその事件が、その日
の夜の全国ネットニュースになったというわけです。犯人は翌日もまだ頑張っていました。
すごいのは、この病院では、犯人が立てこもった部分だけは立ち入り禁止にしている のですが、その他の外来や入院業務はまったく日常通り進むんです。その関連では、爆弾を仕掛けたという脅し(Bomb
threat)というのもERで何度かありましたが、これも1時間ほど、避難勧告が出てチェックを行い、セキュリティーがオーケーを出すとすぐに業務再開になるのが普通でした。
さて、ろう城2日目の昼飯時など、ハンバーガー屋の屋台が出て、遠巻きにやじ馬が何百人も集まり、大変な騒ぎでした。実は僕もその中の一人だったのですが。
結局二日目の夜に、犯人の投降という形で事件は落着しました。犯人は投降時 ' Don't shoot!' と叫びながら出てきたそうです。あとの報道で知りましたが、犯人は投降時に絶対に射殺されると思っていたそうです。
| BACK |