家庭医木戸の現場報告(22)
2024年10月号 JECCS News Letter
欧州航空会社の「顧問医」
今回はちょっと変わった医療の形態を報告します。開業医時代の10数年前から、ヨーロッパの某航空会社の顧問医をやっています。顧問医の仕事は、ヨーロッパから関西空港(関空)に到着した、客室乗務員(CA)と機長/副機長の怪我や病気の診断と治療をすることです。乗客は対象外です。関空詰めの日本人社員は、産業医という言葉を使いますが、産業医は診断、治療には関わらないので、やはり顧問医が正しい名称だと思います。支給されているI Dカードの英語名もConsulting Physician(顧問医/診療医)でOccupational Physician(産業医)ではないのですがねえ。関空詰めの日本人社員は、英語とフランス語は得意ですが、医療/医学にはあまり詳しくはないようです。
さて、もう少し詳しく仕事について説明します。CAにしろ機長/副機長にしろ、ベテランでも50代で、体調管理もしっかりしており、滅多に体調不良に陥ることはありません。ですから、連絡があるのは月に1回あればいいところです。連絡は、本人か、その同僚/上司から私の携帯に来ます。高熱が出ているとか、外傷で出血しているとかを除き、すぐ病院を紹介して受診してもらうことは非常に稀です。電話で話をじっくり聴いて、ほとんどは宿泊ホテルに往診をします。彼(彼女)らは大阪市内のホテルが定宿なので、私も住居は神戸ですが仕事は大半が大阪市内ですので、仕事を済ませた夕方に往診することが多いです。往診に携帯する診察道具は、初期は聴診器、ペンライト、舌圧子くらいでしたが、気圧が低くなる機内で10数時間勤務すると、耳の障害が意外に多いことが分かりました。そのため、5?6年前に耳鏡を買いました。アマゾンで調べると、耳鏡が一般向けに売っていました。その値段が何と3000円程度と医療用の半分の値段なのです。未だに十分活躍してくれているので、質も悪くないです。ホテルで対面でゆっくり問診すると、電話では得られなかった情報が得られることも多いです。問診の情報をもとに診察をすることで大抵の場合診断に至れます。処方箋を書き、ホテル近隣の処方箋薬局に行ってもらうのですが、薬局でのコミュニケーションは外国人にはかなり負担になるようなので、これも大抵は付いて行ってあげるようにしています。
日曜や祝日に連絡を受けることもあります。時々というより、平日より多いような気がします。一番の問題は、休日に空いている処方箋薬局を探すことです。初期の頃は苦労しましたが、数年やっているうちに休日開店の薬局を複数で見つけました。大阪北区の誰でも知っているデパートの地下の薬局は、デパートが開店している日は開店しています。そこはよく外国人患者を連れて行くので、薬剤師とは顔見知りになってしまいました。その薬剤師は、インバウンドの外国人旅行者の客が多いこともあり、英語学校に通っているそうで、私の連れて来た航空業界の外国人患者に服用法の説明を英語でしてくれ、「これで大丈夫ですか?」と私に訊き、私が「完璧!」と答えるとにっこり微笑んでくれます。
写真:2024年6月、南ドイツのロマンティック街道を訪れた時のものです。 利用した航空会社はもちろん私が顧問医をしている会社です。
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