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医学教育  


家庭医木戸の現場報告(9)
(JECCS News Letter 2018年1月号掲載)
予期せぬ感染症発生

  ジェックス参与 木戸友幸


 2017年4月より、それまで非常勤で週2回通っていた特養(特別養護老人ホーム)の管理医師(院長)になり週4回の勤務になりました。管理医師になったからといって特に仕事に変化があるわけではありませんが、施設で起こる医療上の問題の責任をすべて負わなければならないという義務が出てきて、精神的な負担は多少増えます。
 その責任負担の試練がこの10月に訪れました。もともと高齢者は、皮膚の乾燥(皮脂欠乏症というのが正式病名です。)により、痒みを訴えることが多いのです。しかし、10月初旬に発生した、痒みを訴える患者数とその皮膚病変は、いつもの皮脂欠乏症とは少し違うなという印象でした。皮膚の乾燥だけではなく、発赤病変が目立ち、湿疹様でしたので、ステロイド軟膏を処方しましたが、症状の出たほとんどの利用者(特養の入居者は患者ではなく利用者と呼びます。)は1週間たってもステロイドに反応を示しませんでした。もしやと思い、近隣の総合病院皮膚科を受診してもらうと、数人続けて、皮膚病変から疥癬虫が発見され、疥癬の診断がくだされたのです。
 特養での勤務が非常勤から初めてもまだ1年半の新米管理医の私はちょっとしたパニックに陥りました。疥癬は、ホームレスのような不潔な生活者の病気という印象があったので、大事件だと思ったのです。しかし、調べてみると、疥癬は通常疥癬と角化型疥癬の2種類に別れ、ホームレスに起こるひどい疥癬は角化型で、通常疥癬は高齢者施設で流行することもまれではなく、10年前から特効薬もあることが分かりました。その特効薬が、2015年ノーベル生理学・医学賞に輝いた大村智博士が発見したイベルメクチンなのです。この特効薬のお陰で、10人を超える疥癬患者が、ほぼ一ヶ月間で、すべて治癒していきました。
 ということで、何とか事なきを得ました。この時しみじみ思ったことは、集団の感染症においての効果のある治療薬の有り難みでした。10年ほど前までは、疥癬に対しての治療は、痒み止めを塗りながら清潔を保ち、自然治癒を待つしかなかったのです。大村先生が神様のように思える2017年も終わりかける今日この頃です。


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木戸友幸
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