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医学教育  


家庭医木戸の現場報告(3)
(JECCS News Letter 2016年8月号掲載)
家庭医の醍醐味

  ジェックス参与 木戸友幸

 前号に書いたように、家庭医は年齢、性別を問わずにすべての患者さんを診察します。ですから家庭医をしばらく続けていると、患者家族のほとんどの人たちを診察するようになります。もっと長く、例えば10年、20年と続けていると、昔、小学生として診察した患者さんが、結婚してその子供さんを患者として連れてきたりします。こういう家庭医の特徴がさまざまな心に残るエピソードを生み出してくれます。

  小児患者さんは、小学校の低学年くらいまでは、風邪や予防接種などで、かなり頻繁に医院を受診してくれます。しかし、中学生くらいになると体力もついてきて、あまり病気をしなくなります。そして、次に医院を受診してくれることが多い機会が高校や大学の受験の時なのです。受験前あるいは合格後の健康診断のための受診です。その機会を利用して小さい時の思い出などを話してあげると、覚えてなくても、結構興味津々で聴いてくれます。たまには10年前のことを覚えてくれていたりもします。名門大学に合格した患者さんから「小学校の時に、先生から受験勉強は時間じゃなくて集中力だと言われ、その教えを守って合格できました。」と感謝されたことがあります。これは、受験のこつを訊いてきた子供さんすべてに実際言っていることなのですが、自分が出来なかったことを厚かましくも人に説いている訳で内心忸怩たる思いがあります。

  以前から診ている患者さんが、70代になって認知症が出てきて、急速に体力も落ちてきて、在宅医療になってしまう患者さんが増えてきています。こんな場合も、その患者さんの子供さんたちもうちの患者さんであることが多いので、情報交換も容易で、問題なく在宅医療に移ることが出来ます。
在宅医療が数年以上続いて、以前からある内科疾患が悪化、あるいは癌などが新たに発症したりすると、今度は終末期の医療に移っていきます。この場合も、患者さん本人もその家族も患者としての長年の付き合いがあるので、在宅での看取りを希望されることが多くなってきています。

  数年前に経験した例です。80代のご主人が、脳腫瘍で手術も不能と総合病院で宣言されたのです。その奥さんがうちの患者さんで、在宅での終末期医療を依頼されました。病態は急速に悪化し、数ヶ月で亡くなられたのですが、最後の数ヶ月を自宅で愛犬を含めた家族と過ごすことが出来たと、感謝していただきました。最近は核家族化で、昔ほど家族のつながりは強くないと言われています。しかし、家庭医として患者家族を長年観察していると、病気のときはやはり家族の結束は固くなるように感じます。

  ということで、家庭医の醍醐味は、家族全員を長年続けて診ていくということから生まれてきます。ですから、その醍醐味を味わうためには、家庭医自身も体力と忍耐力を鍛え、「細く長く」診療を続けていかなければならないと思っています。


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木戸友幸
mail:kidot@momo.so-net.ne.jp