巻頭言
メタボ健診について思うこと
(JECCSニュースレター 2009年10月号)
木戸医院 木戸友幸
特定健診、通称メタボ健診が開始されてから1年余りがたちました。全国的には受診者数はまだまだ少ないらしいですが、それでも少しずつ数は増えてきているように思います。
このメタボ健診は、実施する医療側には結構手間のかかるものなのです。以前の市民健診に比較して、記入する項目がかなり増加しています。この増加したデータを、をコンビューターに入力するためのデータシートに転記して提出しないといけないのです。この意味するところは、健診受診者のデータを多く蓄積して、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病を予防するための解析を行うための基礎となる本格的なデータベースを作ることにあるのでしょう。
そもそも健診というものは、治療ではなくて、病気の予防の目的で行うものです。メタボ健診も、恐らく行政側の大きな目的の一つは、生活習慣病をメタボ予備軍の間に予防して、医療費を減らすということなのだと想像されます。ところが現実には、まったく逆の現象が起こっています。健診によって、脂質異常症や糖尿病などの病気が新たに発見され、その人たちが受診することによって医療費は増加しているのです。
もちろんこのメタボ健診には、運動や食事の指導も同時に行われているのですが、これは健診以上に時間がかかることなので、実施施設も少なく、それほど実効が上がっていないのが現実です。また、異常を指摘された受診者も努力を要する食事・運動よりも、薬の内服を選んでしまうことのほうが多いようです。ですから、メタボ健診は当分の間は、医療費を増加させるほうにしか貢献しないだろうというのが医療者側の一般的な意見のようです。
これには、病気にはなりたくないが、辛い努力もしたくないという普通の人たちの思いが反映されているので、理想主義を掲げるだけでは、どうしようもないところがあります。米国でもこのことは、真剣に検討されています。現実的に米国人が行き着いた解決案の一つは、現在入手可能な、メタボリック・シンドロームの予防剤を数種類合剤にしたものを、メタボ予備軍の人たちに服用してもらおうという案です。その合剤は、後発品を使用して、できるだけ安価にして、可能な限り多くの人に使ってもらおうということらしいです。病気以前の予防には保険診療のできない日本では、これはかなり過激な案ですが、一理はあると思います。
私自身は、メタボ健診で異常の出た人には、薬を使用せずに運動や食事を中心とした生活習慣を変える指導を診療の一環として何度か試みます。その反応があまり良くない人には、やはり薬を出さざるを得ません。飽食の時代に、運動をして空腹になっても食事は減らすことを習慣づけるのはなかなか困難なようです。