No Side Conference in
Primary Careの試み
(医)木戸医院 木戸友幸
1)はじめに
木戸医院が所属する大阪市東淀川区医師会は、大阪市の東北端に位置する。隣接する吹田市を含めたこの地域は周囲に数百床クラスの良質な総合病院が点在する。それに加え、救急車で30分圏内に2つの大学病院と国立循環器病センターが存在しており、私見では、日本では、あるいは世界でも有数の医療事情の良好な地域だと思っている。
しかし「幸せの青い鳥」はいつも外にいると思うもので、当地の開業診療所の医師には、あまりこういう認識はないようである。
この日本最良の医療環境の最前線を担うのは我々診療所の開業医である。これまでの日本の開業医療は、ある専門性を持って開業する(T字型プライマリ・ケ
ア)ほうがよいとされていたが、この10年ほどで専らプライマリ・ケアを行う医師(櫛の歯型プライマリ・ケア)も徐々に増加してきており、近隣の病院と
うまく連携をとりながら、より効率のよい地域医療を行うようになってきている。
このプライマリ・ケアの本質を十分理解して、診療所医師が最前線を守ってこそ、真の病診連携が機能すると筆者は信じている。
2)プライマリ・ケア勉強会立ち上げの経緯
筆者自身は、卒後20数年間一貫してプライマリ・ケアの実践とその教育・啓発活動に従事してきた。しかし、それらの活動は主に、地元を離れたところで行
われていた。
2001年の夏に当医師会のT医師に、東淀川区の医師を中心に、プライマリ・ケアの勉強会を立ち上げたいのだが、その企画をぜひ筆者に依頼
したいということを告げられた。地元で自分の専門とするプライマリ・ケアについての教育・啓発活動をしていないことに内心忸怩たるものを感じていたこと
もあり、お引き受けすることになった。勉強会の名称については、T医師が以前、彼の専門分野の勉強会で使用していたNo Side
Conferenceをそのまま借用し、その後にin Primary Careを付けることになった。講演会の形式をとるが、講演後の質疑応答の時間を十分とる。またその後に、情報交換会を持ち、ここでもインフォーマルな
情報交換を交わすことにした。講演会のオフィシャルな質疑応答ではかなり厳しい意見も飛び交う。しかし、いったんNo Sideの笛が鳴ってインフォーマルな情報交換になると和気あいあいと意見交換するという趣向である。
演者は筆者を含めた世話人の豊富な人脈を生かして、できるだけその道の第一人者を選ぶように努めた。また、主題は、プライマリ・ケアの概念、具体的な臨
床手技、行政的なことなど、さまざまな切り口からプライマリ・ケアを語ってもらうように企画した。
3)過去3年間の実績
第1回目は、名古屋大学医学部総合診療科教授の伴信太郎氏に、プライマリ・ケアの定義や概念といった総論を語っていただいた。伴氏によると、プライマ
リ・ケア医は「総合する専門医」であり、従来の「分化する専門医」とはまったくカテゴリーの違う専門医である。第2回には、プライマリ・ケアの臨床に強
いとの定評がある国立京都病院(現国立病院機構京都医療センター)総合内科医長 酒見英太氏にさまざまなローテク診察手技についての講義をしていただいた。1時間の予定の講演
が倍の2時間になるという熱の入りようであった。第3回は行政面での話題提供をいただくために、日本医科大学医療管理学前教授の岩崎榮氏をお招きした。
過去20数年間にわたる我が国のプライマリ・ケアに関する行政を含めた歴史を語っていただいた。80年代半ばの「家庭医に関する懇談会」の幻の資料も提
供された。第4回は、亀田総合病院家庭医診療科部長代理の岡田唯男氏に、米国のマネジドケアについて講演していただいた。岡田氏は、米国で家庭医療学レ
ジデンシーと医学教育のフェローシップを終えて帰国されたばかりで、自らの体験に裏付けされた講演は、説得力のあるものであった。第5回は、プライマリ・ケアと密接な関係のある公衆衛生学分野での重鎮、宮城県立がんセンター総長の久道茂氏に、癌検診の評価に関する話題につき語っていただいた。その道
の第一人者だけが知り得るさまざまな裏話もちりばめられており、会場はしばしば爆笑の渦に巻き込まれた。2004年11月に行われた第6回が直近のものである。ミシガン大学家庭医療学臨床助教授のマイク・フェターズ氏と佐野潔氏に米国の家庭医療学の近況につきそれぞれに語っていただいた。日本か
ら見た米国医療に関して、かなりの誤解があることも具体例を挙げて語っていただいた。
4)おわりに
2001年、東淀川区のプライマリ・ケア勉強会として発足した当時は、世話人3人で、出席者も10数名であった。その後、世話人を6人に増やし、案内を
東淀川区を越えて関西一円すべてに配付し、プライマリ・ケアに関心を持つ医学生にもメーリングリスト等を通じて広報するといった手段を講じてきた。この結果、直近の第6回には、50名を越える出席者を迎えるに至った。情報豊かな世話人が加わったことにもより、次の3年間の企画もほぼ決定し、これらはよ
り練られたものになっている。
No Side Conference in Primary Careが関西のプライマリ・ケアの主要な情報源になり、より効率的な病診連携に寄与することを願っている。
最後に協賛していただいているエーザイ株式会社に深謝を表したい。
表1 過去の講演暦
第1回 2001年11月24日 名古屋大学総合診療部教授 伴信太郎「プライマリ・ケアとは」
第2回 2002年4月27日 国立病院機構京都医療センター総合内科医長 酒見英太「往診に役立つ身体診察方」
第3回 2002年11月16日 日本医科大学医療管理学教室前教授 岩崎榮「家庭医を巡る諸問題」
第4回 2003年6月28日 亀田総合病院家庭医診療科部長代理 岡田唯男「マネジドケアとシステムとしての医療そしてプロフェッショナリズム」
第5回 2004年2月14日 宮城県立がんセンター総長 久道茂「がん健診の評価に関する最近の動向」
第6回 2004年11月 ミシガン大学家庭医療学科臨床助教授 マイク・フェターズ「患者のニーズに応える家庭医療学」 同臨床助教授 佐野潔「世界に通用する日本の家庭医療学をめざして」