「これからの医師の育て方」
(2003年大阪府医師会勤務医部会30周年記念講演会にて講演)
木戸友幸 医療法人木戸医院副院長
大阪医科大学臨床教育教授
京都大学医学部総合診療科非常勤講師
わが国では、これまで、臨床医学教育は大学病院において、研究や臨床の片手間に行われてきた。また教育カリキュラムも全国的な標準は存在しなかった。そのためもあり、研修(教育)終了時の到達度のチェックも不十分であった。こういう背景を踏まえて、2004年から研修医制度の義務化が行われることになった。その骨子は、卒後2年間の研修はプライマリ・ケアに徹し、大学病院以外の病院に研修医を分散させ、彼(彼女)をお互いに競合させようということのようである。この新研修医制度の趣旨は、これまでの日本の臨床医学教育の状況と現在のマンパワー
から考えて、やむを得ない選択であったと思われる。しかし、他の先進諸国の標準から見ると、卒後の2年間に卒業生全員にプライマリ・ケアの研修を義務づけるというのは、非常に効率の悪い方式であるように思われる。新制度は、部分的には国税が研修制度に使用されることと、研修医の動機づけの低下(すべての研修医がプライマリ・
ケアに関心があるわけではない。)という面からも、研修の効率を真剣に討議する必要がある。
したがって、私見では、今回のプライマリ・ケア研修をすべての研修医に課すという制度は、あくまでも過渡期的な制度であると考える。将来的には、プライマリ・ケアの研修は、卒前教育に繰り込まれなければならないと考える。このためには、クリニカル・クラークシップを徹底させなければならないが、それには、大学病院においての指導医の数と質の確保が必須になってくる。プライマリ・ケアが卒前に習得できれば、卒後の研修は専門別になるが、その中には、医師のキャリアーとして、プライマリ・ケアを専門にする家庭医のコースも必要になるであろう。
さて、2004年度からの研修医制度改革を過渡期の改革と捉え、将来的にはより効率のいい、研修制度に再度改革するためには、過渡期に準備せねばならないことがある。まず、大学以外の医療施設が積極的に研修の場として参加していかねばならない。そこにはもちろん、診療所(医院)も加わる必要がある。多様な研修施設は、制度がどう変わろうと必要不可欠である。また、大学以外の施設は、まず研修医を受け入れ、何年かの研修経験を積まなければ、研修に的確な施設にはなれない。次に、大学以外の研修施設の個々の医師は、開業医も含めて指導の方法論と技術を磨き、出来れば、
医師サイドの自助努力として、卒前教育にも積極的に関わっていくべきである。もともと乏しい日本の医学教育のマンパワーが、制度が変わるだけでは、大幅に増加することは期待出来ない。最後に、将来的な専門別の卒後研修カリキュラムを、各専門分野の学会の主導で、標準化する必要がある。