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医学教育  

 外来診療を重視する研修を
開業家庭医も参加して 「自学自習」からの脱却


朝日メディカル2003年1月号
木戸友幸

 1)先ず医師の「質」とは何だろうか? ここで議論されているのは、臨床研修であるから、臨床医としての知識と技能がその 質にあたるのであろう。しかし、臨床といっても入院医療と外来医療では、かなり様 相が異なっている。これまでの臨床研修は、そのほとんどが大学病院を中心とする大 きな総合病院で行われてきた。そこでは、医療といえば入院医療で、外来診療は「雑 誌の付録」のようなものである。したがって、そういう研修の場で育てられる研修医 の質は、入院医療に関してはそこそこでも、外来医療に関してははなはだ心もとない ものであると思われる。

グローバルな立場で見ると、日本を除く先進諸国では、様々な必然性から70年代頃か ら脱病院化が進み、外来診療重視が言われるようになって久しい。したがって、諸外 国では研修医の外来診療能力もその質を決定する大きな因子とされている。

日本も最近になり、入院は急性期のみで、できるだけ早く外来(診療所)に戻すとい う病院と診療所の役割分担が言われだしてきている。ということは、日本でも、これ からますます外来診療能力が重要視され、医師の「質」を左右するようになることは 確実である。

2)開業家庭医の現場
日本の開業家庭医は、距離的、経済的なアクセスの容易さから、世界でも比類の無い ほど多くの患者数を短時間で診察している。こういう事情であるので、その医療の質 に関しては、これまではある程度目こぼしされていた感がある。しかし、日本社会一 般での権利意識の高まりや、病院ー診療所間の連携が強化されるにつれ、診療所の医 療の質も厳しく問われる時代になりつつある。

短い診療時間の中で、患者の訴えの中から医学的に急を要する情報を抽出し、それに 対する臨床判断を瞬時に下さないと、日常診療はスムーズに回っていかない。家庭医 の臨床判断は、純粋に医学的な判断ばかりとは限らない。その患者の特別な事情(例、 一人暮らしの老人や患者自身が誰かを介護している場合など)や家族の意向も考慮し なければばならない。こういう技術は病院での入院医療中心の研修では教わることは ないので、すべて自学自習で習得しているのが現状である。(まったく、こういうこ とを考慮しない開業医も多いことも事実であるが)
また、そもそもこういう情報を患者が医師の前で気軽に話せる雰囲気を日頃から作る ことも、開業家庭医にとって必要な技術の一つである。

3)開業家庭医からみて、研修に何が欠けているか?何をすべきか?
ここまで、読み進んでいただいた読者の方は、何が必要かは自ずと分かっていただけ るはずである。研修必修化にあたり、今までとは違う形での外来診療のための研修が 必要不可欠となる。

諸外国では、この外来診療教育に最も力を入れている専門科が家庭医療学科(Family Medicine)である。標準的な研修機関では、家庭医療学センターという外来診療のみ のセンターが装備されている。このセンターで、研修医は研修の期間中、継続して自 らの患者をフォローしていく。このセンターには専属の指導医が常駐しており、問題 が起こるたびにマンツーマンの指導を受けることが出来る。

アジアを含めた世界の流れは、外来診療重視の医師研修であることは間違いの無い事 実である。日本では、入院医療の研修でさえ四苦八苦で行っているのが現状であるの で、既存の大学医学部の教育スタッフに外来教育を期待しても、望み薄のようである。 この10年ほどでかなりの数の大学医学部で設置された総合診療科でも、家庭医療学志 向で外来診療教育に力を入れているところは少数にとどまっている。
そこで、筆者も関係している、家庭医療学会では、有志の医師が協力し、PCFMネット ワークという開業家庭医による研修ネットワークを立ち上げ、ホームページを公開し、 医学生や研修医を受け入れ、ボランティア的に研修を行っている。2002年10月時点で、 協力医療機関は、海外も含めほぼ60を数える。この試みをさらに充実させるために、 当研究会では、指導医研修にも力を入れている。

産業界でも、Think globally, act locally.という標語が叫ばれているが、これは医 療の世界でも通じる標語である。そのことをもっとも忠実に行っているのが、「よく 勉強している開業家庭医」である。したがって、2004年からの臨床研修必修化にあたっ ては、外来診療教育にそういう開業家庭医が指導医としてどんどん参画していかなけ ればならないと信じている。

参考文献
1)木戸友幸:プライマリ・ケア外来での研修
 内科臨床研修指導マニュアル、認定内科専門医会編、123-127
2)木戸友幸:アメリカにおける総合診療
 日本医師会雑誌、112(14), 1859-1861, 1994年
3)http://www.shonan.ne.jp/~uchiyama/PCFM.html  
  (PCFMネットワーク:医学生、研修医を受けれる開業家庭医ネット)
4)http://www.medic.mie-u.ac.jp/jafm/
 (家庭医療学会ホームページ)


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木戸友幸
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