新しい国際基準心肺蘇生法
(New International CPR Guidelines)以降何が変わったか?
Gordon A. Ewy, MD
要約:木戸友幸
路上で倒れている人の命を救うためには、いくつかの連続した救命の手段(生命の鎖)が必要だが、その鎖の中で一番弱い部分が「基本的心肺蘇生(Basic
CPR)」である。
現実にはこの部分がかなり不十分である。
心停止を起した人を蘇らせるためには、たまたまそこに居てそれを発見した人(バイ スタンダー)が開始するCPRがもっとも重要な鍵になる。4分以内にバイスタンダーによって行われるCPRはそれ以後に行われるものより4.5倍も救命率が高いというデータがある。蘇生の主要な決定因子は冠動脈灌流圧(大動脈拡張期圧と右房圧の差)であり、これが十分高いと生存率が上がる。
さて、この大切なバイスタンダーCPRの実施率が最近減少してきている。(恐らく20% 以下)これは、AIDSの流行以降、mouth-to-mouth蘇生法が敬遠されるようになったことと大いに関連があるようである。1995年に行われたアンケートによると、見知らぬ人にCPRを施行するにあたり、胸郭圧迫(Chest-Compression,
CC)とmouth-to-mouth を併用する場合は15%の人しか実施に応じず、CCのみでよい場合は何と68%が実施に応じると答えた。
そこで、CCのみのCPRがmouth-to-mouthを併用した標準蘇生法と比較して、優劣があるかどうかを検証する必要が出てきた。心室細動を実験的に起させた豚を使っての実験では、CCのみのCPRと標準CPRの間には、救命率の差は無かった。(両者とも16匹全
て救命)ちなみにCPRを施さなかった豚は8匹中1匹のみしか救命されなかった。
人においてもCCのみのCPRの有用性のデータは出てきている。電話による指導によって行われたCPRの救命率でもCCのみと標準のもので差は出なかった。(CCのみ:241名
中14.6%救命、標準:279名中10.4%救命)この報告ではCCの有用さを示すもう一つのデータもある。CPRの電話指導時間がCC1.0分、標準2.4分とCCの方が素早く指導が出来たことである。
CCのみのCPRを行っているバイスタンダーが、CCの手を休める毎に患者が覚醒し、自発呼吸を始めることもよく観察されることである。
こういうデータの蓄積から、90年後半より米国の主要な医学雑誌(JAMA, Circulation, New England
Journal of Medicine)にバイスタンダーのCPRとしてCCのみのものを推奨する記事が掲載されるようになってきている。
CCとmouth-to-mouthによる人工呼吸併用のCPRでは、15:2の比で行うのが最適とされている。CCのみのCPRでは、50回CCを繰り返し、その後2.5秒休むのが最適である。
CCのみのCPRの有用性が、公にされたのはごく最近のことである。この理由は、過去40年にわたってアメリカで心臓に関っている人たちが、標準的CPRのみにこだわり、それ以上のCPRについての研究は必要はないと考えていたからである。
CCのみのCPRは、しかし、すべてに適応できるわけではない。以下の場合はその適応外である。小児、重症冠動脈疾患、アルコールを含む薬物中毒、溺死寸前、呼吸不全である。
以上述べたように、路上で倒れている人を見かけたときは、救急車に連絡して上で、救急隊が到着するまで、胸を押し続けることを忘れないで欲しい。